2018 Fiscal Year Research-status Report
領土海洋問題における裁判による紛争処理の機能と限界
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17KK0054
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
許 淑娟 立教大学, 法学部, 准教授 (90533703)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | 国際法 / 国際裁判 |
Outline of Annual Research Achievements |
共同研究期間の前半に当たる本年度は、個別の事件判決を詳細に検討し、研究会合を通じて、判決の解釈、意義、その帰結について議論を加えた。本研究課題は、個別事件における国際法解釈、当事国の裁判内外の主張、さらに、裁判後の当事国の態度、すなわち裁判判決の紛争解決プロセスにおけるインパクトまでを射程に収める。この指針にしたがって、研究代表者が行ったリビア・チャド事件(1994年)およびカメルーン・ナイジェリア事件(2002年)において、当事国の裁判内における主張と、法廷によって行われた国際法解釈、その帰結について分析を行った。両事件は、国境線および領域主権権原帰属に関する条約は比較的明確であった点では共通しているにもかかわらず、植民地化以前の領域支配の実態に対して、前者では裁判所は言及するにとどまったのに対して、後者ではかなり精密な検討を加えているという差が見出せる。ベンガル湾事件(2009年)の検討からは、権原と権原付与の違いを読み取ることによって、陸と海の連続性と非連続性について示唆を得られた。さらに、研究代表者が参加したチャゴス勧告的意見の検討においては、本意見に至るチャゴスとモーリシャスの経緯、とくに何が少数者であり何が自決原則の主体である人民であるかについて再検討が必要であること、自決原則の実現のあり方が多様であることを認めながら特定の方法を指定することの是非、領域の一体性の軽視、さらに宗主国と植民地間における合意の質の問題が指摘される。 領土海洋問題は国家の成り立ちのみならず、国際法秩序の成り立ち以前(例えば陸と海洋の二分的思考)にも関係し得る。その中で国際法に基づく個別紛争の解決をめざす裁判の機能は文脈依存的となろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
領土海洋問題に関連する個別の判決に関して、その裁判過程全体を分析し、意義と限界を検討するという本課題の進捗については、①いくつの判決を扱えるのか、それらの裁判過程をどこまでカバーできるのかという量的評価と、②いかに重要な判決を選択できるのか、どれほど深く、かつ多様な視点から分析できるかという質的評価がなされることになるだろう。いわゆる重要とされている事件のみならず、検討を通じて意義を見出す事件も存在し得るが、現状においては、いわゆる重要とされている判決、思いがけず重要な判決の分析に取り掛かることができている。また、当初の予定よりも多くの研究者が本課題への助言や部分的に関与することになり、より多様な視座に関する示唆を受けた。ただし、裁判内の当事国の主張や裁判所の論理の分析が中心的になっており、裁判過程の全工程をカバーするには至っていない。また、重要な判決について未着手のものもある。
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Strategy for Future Research Activity |
既に検討を加えている諸事件について、裁判前・裁判後の紛争状況の分析を試みる。さらに、未着手である南シナ海仲裁についての分析も開始する。 既に着手済みの事件と合わせて、さらに本研究課題では直接扱う予定はないものの、本研究課題の基課題において分析を行っているペドラ・ブランカ事件やリギタン・シパダン事件・エリトリア・イエメン事件などとの総合的な検討を進めたい。在外研究期間中の開催は困難となりそうであるが、帰国後にフォローアップとして、本研究課題におけるトピックを一つ選定して、一定規模以上の国際シンポジウムの共催をヨーロッパにおいて検討している(現状のところ、「島」というキーワードでの開催を検討している)。
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