2019 Fiscal Year Research-status Report
領土海洋問題における裁判による紛争処理の機能と限界
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17KK0054
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
許 淑娟 立教大学, 法学部, 教授 (90533703)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | 領域法 / 海洋法 |
Outline of Annual Research Achievements |
共同研究期間の後半に当たる本年度では、前年度に引き続き、個別の事件判決を詳細に検討し、研究会合を通じて、判決の解釈、意義、その帰結について議論を加えるとともに、島という鍵概念をテーマにパリ第8大学を中心とする研究プロジェクトにも参加して、領域法における裁判の意義を照射することにも従事した。さらに、国家管轄権外海域における海洋科学調査を題材に、基準を策定するという行為自体が、紛争解決にどのような機能を及ぼすのかを考察した。 島に関する研究プロジェクトでは、人工島の扱いや、境界画定における島の効果、水没する当初国家の国家性など多岐にわたる分野を扱ったが、本研究課題と関連する範囲においては、島の領有問題における学説と判決の乖離、判決の蓄積による紛争解決基準の結晶化の意義について考察した。領域法の学説が植民地化の過程でその正当化の文脈で生じてきたことは新たな常識に属するが、領域支配の実態を動態的に捉えるものである裁判判決の蓄積であるところの「主権の表示」アプローチもまた、同様の限界を内在している。それは、国家対国家での紛争処理手段における限界でもあり、また、適用法を既存の国際法とする以上、国家性と領域性において非ヨーロッパ的な秩序を把握できない。 適用法が既存の国際法とせざるを得ない国際裁判の限界は、植民地主義を出自とする領域法分野では圧倒的であるが、海洋法においても然りである。海洋法においては、EEZや大陸棚の境界画定のように国際判例がその内容の充実化に大いに寄与した分野も存在するが、他方で、境界画定のようなゼロサムゲームにならない国際公益あるいは一般利益がかかわる点(たとえば国家管轄権外海域の扱い)などは、国家対国家による紛争処理手段の俎上にのぼることはない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
領土海洋問題に関連する個別の判決に関して、その裁判過程全体を分析し、意義と限界を検討するという本課題の進捗については、①いくつの判決を扱えるのか、それらの裁判過程をどこまでカバーできるのかという量的評価と、②いかに重要な判決を選択できるのか、どれほど深く、かつ多様な視点から分析できるかという質的評価がなされることになるだろう。チャゴス事件や南シナ海事件について、国際共同研究の機会を生かして、多岐にわたる助言を得ながら分析を進めることができた。 また、二つの国際シンポジウムの準備過程においては、関連する諸判決に横ぐしを通しながら特定のテーマに対する示唆を得る共同研究者たちの研究成果に触れた。個々の判決の丹念な分析という本研究課題が予定する研究手法とは大きく異なるものの、個々の判決の分析の位置づけについて示唆を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
既に着手済みの事件と合わせて、さらに本研究課題では直接扱う予定はないものの、本研究課題の基課題において分析を行っているペドラ・ブランカ事件やリギタン・シパダン事件・エリトリア・イエメン事件などとの総合的な検討を進めたい。実のところ、本年度にフォローアップとして、本研究課題におけるトピックを一つ選定して、在外研究先であった英国あるいは国際シンポジウムの共催先であったフランスにおける国際セミナーの共催あるいは参加を検討していたが、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大に伴い、先行きが見通せない。渡航が困難であることを前提に、国際セミナーと、日本において今までの研究成果を基課題との連携も見据えて、公表論文としてまとめる等の作業を進める。
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