2019 Fiscal Year Research-status Report
イノベーションと労働者の多様性の空間経済学分析:日米データによる実証分析
Project/Area Number |
17KK0068
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 和博 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (10362633)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | 多様性 / 文化共通集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画の通り、2018年8月30日から2019年8月までUniversity of California, Irvineに滞在し、理論モデルの構築、データの収集、実証研究のためのプログラミング言語の習得を行った。本プロジェクトでは、労働者の言語、文化的背景の多様性を組み込んだ理論モデルを構築し、さらに実証研究を行う計画であった。労働者の文化的背景と生産性の関係に関する理論モデルの構築は前年度までに作ったモデルを修正することで、当初の計画以上の進展を見た。文化的背景の異なる労働者のは、ある程度大きな文化的に共通の背景を持つ集団に属することによって生産性を上げ得る。同一の言語を話し、生活習慣等が共通する多くの人々に囲まれることにより、生産性が上がるのである。文化的背景の多様性が保たれていても、個々の集団があまりに小さい場合には、かえって生産性が下がる場合が出てくることが分かってきた。このような場合には、あまりに多くの異なる文化に適応することに多くの費用を費やしてしまうのである。 この理論的な結果について、日本のデータで実証研究を行った。その結果、日本のように文化的多様性が乏しい環境では、個々の文化的に共通の背景を持つ集団が小さすぎる場合には多様性の増加は生産性を低下させることが確認できた。今後は、この結論をアメリカのデータによって実証的に検討する予定である。アメリカの場合は、個々の文化的に共通の背景を持つ集団が十分大きいため、多様性の増加が生産性を上昇させる場合が出てくることが期待される。また、日本の実証研究の結果と比較検討することにより、結果の頑健性も検討していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進んでいる。前年度に作った理論モデルを改良し、文化的に共通の背景を持つ集団の大きさに注目したモデルを再構築した。その結果、文化的多様性が増えても生産性がかえって下がる場合が起こることが分かってきた。文化的背景が共通する集団の大きさに注目することは、University of California, IrvineのJan K. Brueckner教授との議論から生まれた考え方である。すでに文化的多様性が大きなアメリカでは、個々の文化的に共通の背景を持つ集団が十分大きいことが重要であることが認識されている。ある程度大きな集団に属することで初めて他の文化的に共通の背景を持つ集団に適応する費用が下がるのである。しかし、この集団が大きすぎると、今度は他の文化的に共通の背景を持つ集団と全く接点を持たなくなる。つまり、文化的多様性が失われてしまうのである。この場合も生産性が下がってしまう。このような新しい視点を持った研究を行えたことは本年度の研究の大きな成果である。 以上の理論研究の成果は、日本のデータを使って検証もされた。今後はアメリカのデータを使って検証を行う予定である。当初の予定と比べるとアメリカのデータを使った実証研究には手間取っているが、着実に進んではいる。
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Strategy for Future Research Activity |
プログラミング言語Rの習得によって、データを加工する際の自由度があがった。このことにより、欠損値を多く含んだデータであっても適切に処理することが可能になり、実証研究を行う準備が整ってきた。これを利用し、日本のデータを使った実証研究を行った。しかし、実証研究の経験、スキル共に不足しているため、今後も継続してスキルの向上を行いたい。 University of California, Irvineには2019年8月まで滞在した後、日本に予定通り帰国した。アメリカに関する実証研究を継続する予定であったが、こちらに関しては予定よりも時間がかかっている。帰国後、Brueckner教授との議論の機会が予想以上に減ってしまったためである。しかし、今後はBrueckner教授ともオンラインで議論を重ね、研究を進めていく予定である。 2020年度は実証研究に専念する予定である。特に、日本のデータを使った実証研究をアメリカのデータを用いて検証することを予定している。日本とアメリカのデータを比較検討し、結果の頑健性をチェックすることが目的である。
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Research Products
(1 results)