2020 Fiscal Year Research-status Report
イノベーションと労働者の多様性の空間経済学分析:日米データによる実証分析
Project/Area Number |
17KK0068
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 和博 大阪大学, 経済学研究科, 教授 (10362633)
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Project Period (FY) |
2018 – 2021
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Keywords | 多様性 / コミュニケーション費用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトでは、労働者の言語、文化的背景の多様性を組み込んだ理論モデルを構築し、さらに実証研究を行う計画であった。2020年度には労働者の文化的背景と生産性の関係に関する理論モデルを新たに構築した。これまでの理論ではコミュニケーションの費用を考慮していなかったが、それを考慮に入れることにより、新たな知見を得た。文化的背景の異なる労働者が意思疎通を図ろうとすると、情報の受け渡しに費用が掛かり、生産性が下がってしまうのである。しかし、同一の文化的背景を持った労働者間ではコミュニケーション費用が低く抑えられるが、そのようなコミュニケーションから得られる生産性の向上は低く抑えられてしまう。しかし、文化的背景の多様性が保たれていても、コミュニケーション費用が高い場合には、かえって生産性が下がる場合が出てくることが分かってきた。このような場合には、あまりに多くの異なる文化に適応することに多くの費用を費やしてしまうのである。 この理論的な結果について、日本及びアメリカのデータで実証研究を行う予定である。日本では労働者の文化的背景の多様性が乏しい反面、コミュニケーション費用も低く抑えられる傾向がある。対してアメリカの労働市場では文化的背景の多様性が高いが、同時にコミュニケーション費用も高くなる。このような対称的な労働市場を比較することにより、労働者の文化的背景の多様性が生産性に与える影響が適切に計測され得ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進んでいる。2020年度には労働者の文化的背景と生産性の関係に関する理論モデルを新たに構築した。これまでの理論ではコミュニケーションの費用を考慮していなかったが、それを考慮に入れることにより、新たな知見を得た。その結果、文化的多様性が増えてもコミュニケーション費用が上昇し、社会全体の生産性ががかえって下がる場合が起こることが分かってきた。コミュニケーション費用に注目することは、前年度までに考えていたことだが、具体的に理論モデルに落とし込み、結果を導出することが出来たことが2020年度に得られた成果である。労働者文化的多様性が大きい場合、コミュニケーション費用が高くなることが多いことは、アメリカの労働市場では頻々と観察される。このようなコミュニケーション費用は個人が負担するのに対し、文化的背景の多様性による生産性の向上は社会全体が恩恵を被る。そのため、放置しておくと、文化的背景の多様性は過少になることが示された。つまり、政府が労働者の文化的背景の多様性が増えるように介入する政策を採ることによって社会厚生が向上されることが示されたのである。 以上の結論を解析的に示すことが出来たことが本年度の大きな研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度はアメリカに関する実証研究を継続する予定であったが、こちらに関しては予定よりも時間がかかっている。Brueckner教授ともオンラインで議論を重ね、研究を進めてきたのだが、当初の目論見よりもコミュニ―ケーションに手間取っている。しかし、その分、新たな理論モデルの構築に時間を投入することができた。具体的には、コミュニケーション費用が理論モデルに含まれる場合には、労働者の文化的背景の多様性が社会的に過少になり、そこに政府が介入する必要性があることを示すことが出来たことであり、これは大きな研究成果である。 2021年度は上記の理論モデルの拡張と精緻化を行っていく予定である。上記の結論は理論モデルにやや強い仮定を置くことで得られたものである。2021年度には関数形の一般化と仮定の吟味を行い、数値計算も行うことによって結果の頑健性を確かめる予定である。さらに、日本及びアメリカのデータを用いた実証研究も行う予定である。必要なデータはある程度揃って来ているので、理論モデルの拡張、精緻化と実証手法の吟味を進めていきたい。
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