2022 Fiscal Year Research-status Report
イノベーションと労働者の多様性の空間経済学分析:日米データによる実証分析
Project/Area Number |
17KK0068
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山本 和博 大阪大学, 大学院経済学研究科, 教授 (10362633)
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Project Period (FY) |
2018 – 2023
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Keywords | 文化的多様性 / コミュニケーション費用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトでは、文化的背景の多様性を組み込んだ理論モデルを構築し、さらに実証研究を行う計画であった。2021年度までには労働者の文化的背景と生産性の関係に関する理論モデルを構築してきた。これまでの理論ではコミュニケーション費用を考慮にいれていなかったが、コミュニケーション費用を考慮にいれることにより、新たな知見を得た。それに加え、2022年度には、文化的背景の異なる労働者が意思疎通を図ろうとする際のコミュニケーション費用が内生化されたモデルを構築し、さらに労働者が居住空間を選択できる空間経済学モデルに発展させた。その結果、文化的背景の異なる労働者の増加は、コミュニケーション費用を増加させるのであるが、労働者の教育水準が上がると、コミュニケーション費用が抑えられ、ある都市空間における労働者の集積がみられることがわかってきた。同一の文化的背景を持った労働者間ではコミュニケーション費用が低く抑えられるが、そのようなコミュニケーションから得られる消費財の多様性は限られている。しかし、文化的背景の多様性が保たれていても、コミュニケーション費用が高い場合には、かえって消費財の多様性が下がる場合が出てくることが分かってきた。また、労働者の教育水準が高まることにより、文化的背景が異なる労働者のコミュニケーションが可能になり、労働生産性が高くなることが示された。この理論的な結果について、日本のデータでの実証研究の後、アメリカのデータでも実証研究を行う予定である。日本では労働者の文化的背景の多様性が乏しい反面、コミュニケーション費用も低く抑えられる傾向がある。対してアメリカの労働市場では文化的背景の多様性が高いが、同時にコミュニケーション費用も高くなる。このような対称的な労働市場を比較することにより、労働者の文化的背景の多様性が生産性に与える影響が適切に計測され得ると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進んでいる。2022年度には労働者の文化的背景と生産性の関係に関して、コミュニケーション費用を内生化した空間経済学のモデルを構築した。これまでに構築した理論モデルでは労働者は居住空間の選択を行ってこなかった。2022年度に構築した理論モデルでは、居住空間を内生化することにより、文化的多様性の増加そのものが労働者の集積のスイッチとなることがわかってきた。労働者の文化的背景が多様化することにより、一つの都市空間で生産される財の種類が飛躍的に増加する。このことにより、都市空間で得られる実質賃金が上昇することが労働者の集積の原因である。このような仕組みの理論モデルの構想はこれまでも持っていたが、具体的に理論モデルに落とし込み、結果を導出することが出来たことが2022年度に得られた成果である。このような集積力の向上は、全ての労働者に便益をもたらすのだが、市場では十分な種類の文化的多様性が供給されない。そのため、放置しておくと、教育水準と文化的背景の多様性が過少になることが示された。つまり、政府が教育水準と労働者の文化的背景の多様性が増えるように介入する政策を採ることによって社会厚生が向上されることが示されたのである。以上の結論を数値的に示すことが出来たことが本年度の大きな研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は日本とアメリカに関する実証研究を継続する予定であったが、こちらに関しては予定よりも時間がかかっている。Brueckner教授ともオンラインで議論を重ね、研究を進めてきたのだが、当初の目論見よりもコミュニ―ケーションに手間取っていることが2020年度から続いている。しかし、新たな理論モデルの構築に時間を投入することができたことにより、数値的な解析を予定以上に進めることができた。具体的には、居住空間が内生化された場合には、教育水準と労働者の文化的背景、および供給される消費財の多様性が社会的に過少になり、そこに政府が介入する必要性があることを数値的に示すことが出来たことであり、これは大きな研究成果である。 2023年度は上記の理論モデルの拡張と精緻化を行っていく予定である。上記の結論は数値的な解析によって得られたものである。2023年度には解析的な結論を得るために、引き続き分析を行っていく予定である。さらに、日本及びアメリカのデータを用いた実証研究も行う予定である。必要なデータはある程度揃って来ているので、理論モデルの拡張、精緻化と実証手法の吟味を進めていきたい。
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Research Products
(1 results)