Research Abstract |
高山に発達する植物相の多様性や環境との関連を研究する上で,世界最大の山脈であるヒマラヤは最適なフィールドである。日本には1950年代以来の研究蓄積もあり,分析には過去に蓄積された標本資料も活用することができる。そのようなことを背景に,平成19年度は,チベット高原側では,甘粛省南部で現地調査をおこなった。また,ネパールにおいては,これまであまり調査がおこなわれていなかった時期である初春に中央ネパール,カリンチョークで,さらに秋に中央ネパール,ロルワリンで現地調査をおこなった。甘粛省,ネパールともに現地ではGPSで緯度,経度,高度を測定し,アスマン温湿度計などを用いて環境条件を把握するための諸測定をおこない,調査地域に見出された高等植物全種について,生育状況を調べ,標本として採集した。特に,ユキノシタ属(ユキノシタ科),キジムシロ属(バラ科),トウヒレン属(キク科),メコノプシス属(ケシ科),ウメバチソウ属(ウメバチソウ科)などについては,分子遺伝学や細胞遺伝学的な解析に用いる試料を野外で収集した。 収集した標本,試料とこれまでに蓄積された標本などを用いて,分類学的分析をおこなった。ベンケイソウ科マンネングサ属,ユキノシタ属マメ科Campyrotropis属,トウヒレン属については,分類学的ノートまたは新種の記載をおこなった.ツリフネソウ科ツリフネソウ属については,国際的出版物である"Flora of China"において分担執筆をおこなった。また,マオウ科マオウ属Ephedrapachycladaについて,材構造と高山環境に対する適応を議論した。さらに,ネパールヒマラヤの種多様性や植物資源に関する論考をおこなったり,調査の行動記録を雑誌や学会で発表したりした。また,中央ネパール,ムスタン地域の植物相に関して,2008年3月に"Flora of Mustang,Nepal"を上梓した。
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