Research Abstract |
統合失調症や大麻摂取で最も治療困難であり問題となるのは,感情の平板化,無関心,自閉など精神機能の減退を現す陰性症状である.特に社会的引きこもりや自閉など社会的行動の障害は,治療上問題となるばかりではなく,社会生活を営むことができないため,本人ばかりではなく,家族にとっても,精神的にも経済的にも負担となるものである.さらに統合失調症は人口の1%に発症し,出現率が高い割に長期入院を必要とする場合が多く,さらに自殺頻度が一般人口の8倍以上という驚異的なものであり,病態の発症機序の解明や新規治療薬の開発は,国家的経済面や社会的側面からも重要な課題であると思われる.ところが,社会的行動の障害に関して十分な発症原因の解明は行われていないのが現状である.そこで本研究では,大麻摂取や統合失調症による社会的行動の障害に着目し,その発症機序の解明を機能的および形態学的両面から追究し,治療薬の開発や治療法の確立に繋げようとするものである.また,最近,社会的行動障害を主症状とする自閉症においてバソプレシンV1a受容体の遺伝子異常がみられることや統合失調症様の症状を発症するフェンサイクリジンを連続投与すると社会的行動障害とともにV1a受容体が減少することが報告されており,この受容体が社会的行動に関与することが示唆されている.そこで今回我々は,大麻活性成分delta-9-tetrahydrocannabinol (THC)投与およびV1a受容体欠損マウスが社会的行動に対してどのような影響があるのか検討を行った.社会的行動の測定はsocial interaction testを用いて評価した.その結果,THCの投与およびV1a受容体欠損マウスにおいて社会的行動障害が発現することが明らかとなった.さらに,これらの障害は不安によって起こるものではないこともわかり,社会的行動障害の動物モデルを作成することができた.さらに,我々はV1a受容体欠損マウスにおける社会的行動障害が自閉症に近いものなのかそれとも統合失調症に近いモデルであるのか調べるために,幼若期における行動の変化についても検討を行い,V1a受容体欠損マウスは開眼率や体重など成長に変化はないが,低不安は幼若期よりみられること,社会的行動障害は幼若期では発現していないことなどを見出し,このマウスは自閉症よりむしろ統合失調症の動物モデルであることを明らかにした.
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