2022 Fiscal Year Annual Research Report
A Comprehensive Research on Style of the Violin Playing in the First Half of the 20th Century
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18H00636
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
大角 欣矢 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (90233113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 峰夫 京都市立芸術大学, 音楽学部, 教授 (00533952)
片山 杜秀 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (80528927)
丸井 淳史 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (90447516)
井上 さつき 愛知県立芸術大学, 音楽学部, 名誉教授 (10184251)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 演奏研究 / 演奏様式 / ヴァイオリン / レコード / 鈴木慎一 / 歴史的音源 / 演奏分析 / 聴覚文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀前半のヴァイオリン演奏様式の諸伝統の生成過程とその変遷の解明に向けた基礎研究である。主たる資料として、ヴァイオリンの歴史的音源を豊富に含む東京藝術大学附属図書館所蔵SPレコード集成「野澤コレクション」を用いる。演奏分析にはコンピューターによる音響分析を活用する。同時に、レコードやラジオといった新しいメディアの普及を始め、歴史的・社会的状況と演奏様式の形成や変化の間にどのような相互作用が働いたのかなど、文化史的観点からの考察を行う。 今年度は、「野澤コレクション」ヴァイオリン音源のディスコグラフィーデータベース整備のための作業を継続するとともに、ヴァイオリン演奏研究のケーススタディとして、鈴木慎一とその音楽活動を巡る状況に光を当て、さまざまな観点から研究を行った。そして、これまで3回の研究会を開催し、各自の研究成果につき情報・意見の交換を行った。鈴木はベルリンで師事したクリングラーを通じて、ヨアヒムの流れを汲む「ドイツ風」演奏技法を基盤としてヴァイオリニストとしての自己形成を行う一方、実演及びレコードを通じて当時の主要なヴァイオリニストやカルテットからの影響も多大に受けている。例えば、鈴木によるフランクのソナタの録音(1928年)をティボーの録音(1924年)と比較すると、運弓法などではクリングラーの影響が窺われるものの、テンポの変化はティボーに酷似している。また、日本におけるフランク受容のあり方、特にレコード界におけるその状況、鈴木の演奏活動に対する反響、彼の生育環境や日本におけるヴァイオリン文化についても情報共有が行われた。さらに鈴木の「才能教育」への傾倒の背景として、当時の社会情勢を反映した児童・教育観、及びそこにおいて聴覚の果たす独特の役割、一種のブームとなった「天才少年・少女」を巡る状況にも光が当てられ、多岐にわたる論点について議論がなされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、鈴木鎮一の1928年のフランク録音の演奏分析や、それを巡るさまざまな状況・事実などを明らかにでき、次の研究の進展に繋がる成果を出せたため、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで研究会で共有されたさまざまな研究結果や論点を整理するとともに、さらに新たな演奏分析や資料調査の結果を加えて概要をとりまとめる。そしてそれを2023年10月21日に東京藝術大学において開催予定のシンポジウムにおいて発表する。シンポジウムの内容は、後日ウェブサイト上にて公表する予定である。 また、本研究で基礎資料として使用した「野澤コレクション」ヴァイオリン音源のディスコグラフィーデータベースについても、細部の修正等整備を経たのちインターネット上で一般公開する。
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