2019 Fiscal Year Annual Research Report
The Formation processes of Japanese Traditional Food Culture
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18H00746
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Research Institution | Hokuriku Gakuin University |
Principal Investigator |
小林 正史 北陸学院大学, 人間総合学部(社会学科), 教授 (50225538)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 慎二 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任助教 (00609901)
三阪 一徳 九州大学, 人文科学研究院, 助教 (00714841)
北野 博司 東北芸術工科大学, 芸術学部, 教授 (20326755)
妹尾 裕介 滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 学芸員 (20744270)
長友 朋子 (中村朋子) 立命館大学, 文学部, 教授 (50399127)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ススコゲ / 土器使用痕 / 民族考古学 / 米蒸し / 湯取り法炊飯 / 3Dスキャナ / 炊飯実験 / 和食の成立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「東南アジア民族誌と類似した米品種(粘り気度が弱い)、米調理方法(側面加熱蒸らしを伴う湯取り法炊飯)、飲食方法(共有の置き食器から手食)」を用いていた初期稲作民(弥生~古墳前期)から、和食の原型が成立する中世(平安時代後半~)にかけての主食調理方法の変化過程を明らかにすることである。 具体的には、①弥生・古墳時代に進行した「湯取り法炊飯の中での茹で時間短縮化」、②5~6世紀における湯取り法炊飯から米蒸しへの主食(ウルチ米)調理法の転換過程、③5~10におけるウルチ米を蒸す調理の東西日本間の地域差、④中世前半における炊き干し法炊飯(ただし、雑穀との混炊の比率が高まるため、攪拌しやすさを重視した炉での浅鍋調理)への転換過程、という、米調理方法の転換過程を復元する作業を行ってきた。 その際、①ワークショップ形式のススコゲ観察会(3Dスキャナによる図面作成を取り入れる)と②東南アジア諸地域における民族誌の比較分析に基づいて、側面加熱蒸らしを伴う湯取り法炊飯やウルチ米を蒸す調理の基本特徴とバリエーション(およびその理由)を解明する、③米調理実験、という方法を組み合わせた研究を実施してきた。 具体的には、2019年度は、新潟県の余川中道遺跡(古墳中・後期)・天野遺跡(古墳中・後期)・御井戸遺跡(古墳前期)・緒立遺跡(古墳前期)、愛知県朝日遺跡(弥生前期~古墳前期)、唐古・鍵遺跡(弥生前期~古墳前期)、奈良県新堂遺跡(5世紀前半)、滋賀県下之郷遺跡(弥生中期)、高知県介良野遺跡(弥生・古墳移行期)、などにおいてワークショップ形式のススコゲ観察会を実施し、以下に示すような多くの成果を得た。 また、タイ北部~ミャンマーシャン州の山地民の食文化調査を2019年8・9月と12月~1月の2回実施し、「ウルチ米を蒸す調理」がこの地域の主体的主食調理法だったことを初めて明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、以下の点で米調理方法の変化過程についての新知見が得られた。 第一に、北タイ・ミャンマーの焼畑山地民の食文化調査において、カレン族を除く6部族では「蒸したウルチ米が伝統的な主食調理法であること」が明らかとなった。これらのウルチ米を蒸す調理では、蒸しのみではウルチ米を糊化しきれないため、「茹でた後に蒸す」(茹で蒸し法、モン族)または「途中で取り出して吸水・攪拌した後、再び蒸す(二度蒸し法、他の5部族)」のどちらかの方法を取ることが判明した。 第二に、新潟地域でのススコゲ観察会の成果として、5・6C(カマド導入以前)ではススが付く甑が存在することから、火力が弱い炉での米蒸し調理が、湯取り法炊飯と併存していたことが判明した。さらに、造り付け竈を導入しない山陰地域では、二股型支脚(茹で工程)と移動式竈(蒸し工程)を組み合わせてウルチ米を蒸したことが判明した。上述の米蒸し民族誌モデルを参照すると、造り付けカマドを用いない上述の時期・地域では「茹で蒸し法」を用いたのに対し、強力な火力を用いる造り付けカマドでは二度蒸し法を用いたことが示唆された。 第三に、各地域における土器分析の結果、上述の新潟地域に加えて、群馬・大和盆地・南九州においても、米蒸し調理の導入初期段階では、湯取り法炊飯とウルチ米を蒸す調理が併存することが明らかになってきた。そして、この段階のウルチ米蒸し調理は、湯取り法炊飯と前半の工程が共通する「茹で蒸し法」が主体だった、という見通しが得られた。 第四に、各地域における古墳前・中期深鍋のススコゲ観察において「側面加熱蒸らしの際に、鍋をやや傾けて置くことにより肩部の位置を下げ、肩部に炎を当てた」ことが検証された。その結果、「当該期の深鍋には、直置きにも関わらず、自立しない小平底が目立つ」のは、蒸らし時に鍋を傾けて設置しやすくするための工夫であることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の2020年度は、上述の成果を深めるための東南アジアの民族誌調査やワークショップ形式のススコゲ観察会を予定しているが、外出自粛要請のため少なくとも8月までは実施する見通しが得られていない。秋以降に以下の調査を実施したい。 民族誌調査: 2018・2019年度の北部タイとミャンマーでの調査は、ウルチ米を蒸す調理と湯取り法炊飯の分布を把握するためにできるだけ多数の村を訪問した。これらの調査成果を踏まえ、2020年度は、茹で蒸し法と二度蒸し法の各々について、調査村を限定してより多くの調理観察を行うなど、調査内容を深める。 ワークショップ形式のススコゲ観察会: 第一に、新潟、近畿、南九州においてススコゲ観察会を蓄積し、「湯取り法炊飯から米蒸調理への転換過程」を明らかにする。第二に、山陰地方や鹿児島地方のように、造り付け竈を受け入れなかった地域の米調理方法をより具体的に明らかにする。第三に、中世前期の東日本ではカマドが消失し、浅鍋を囲炉裏に吊る方法で炊飯とオカズ調理が行われたことが明らかになりつつある。東日本の中世では土鍋が鉄鍋に転換したため、考古資料では鍋や火処の証拠が残りにくいが、民族誌資料と断片的考古資料を組み合わせることにより、中世の炊飯方法が従来の民俗学・歴史学でしてきされているような「湯取り法」ではなく、炊き干し法だったことを検証していく。第四に、これらの観察会において、3Dスキャナによるススコゲ図面作成をさらに進める。 研究成果の公開: 2020年5月の日本考古学協会総会において「湯取り法炊飯から米蒸し調理への転換過程」というセッションを開催する予定だったが、残念ながら誌上発表のみとなった。ススコゲ観察会や民族誌調査ができない期間を利用して、これまでの調査成果を雑誌特集号か単行本の形で発表していく予定である。
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