2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18H00747
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Research Institution | National Museum of Japanese History |
Principal Investigator |
林部 均 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (70250371)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三上 喜孝 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (10331290)
高田 貫太 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (60379815)
菱田 哲郎 京都府立大学, 文学部, 教授 (20183577)
坂上 康俊 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (30162275)
桑畑 光博 九州大学, アジア埋蔵文化財研究センター, 学術研究者 (70748144)
蓑島 栄紀 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70337103)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 境域 / 官衙 / 交流 / 地域社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、古代日本の境域における官衙の最新の発掘調査にもとづき、遺跡を構成する建物や空間の機能、その変遷を可能なかぎり復元し、その動態を明らかにした。その際、官衙のもつ交流拠点としての機能である外交、交易、軍事という視点をとくに意識して、それを反映する具体的な遺構・遺物・史料の把握に努めた。 この作業を古代国家の東では、1.秋田平野(秋田城)とその周辺、2.横手盆地とその周辺、古代国家の西では、3.福岡平野(大宰府)とその周辺、4.大島畠田遺跡と都城盆地、5.日向国府跡(西都市)とその周辺、と5つの地域を設定して分析をおこなった。とくに、研究の初年度であったので、これらの地域のすべてを巡検した。 その結果、2.の横手盆地と4.の都城盆地が、地形条件、居館といった有力者の出現、集落の動態、外の地域の交流に果たした役割などが類似するという成果が得られた。古代国家の東と西を考えていくポイントになる地域と考えた。次年度では、遺跡・遺物・史料を分析して境域がもつ特性を抽出する。 1.の秋田城では、北海道の石狩低地帯に秋田城への供給を目的とした窯で生産された須恵器が多数搬入されている事実が明らかとなった。秋田城と石狩低地帯とが、どういう経緯・目的で交流することになったのかなど、新たな研究視点が生まれるとともに、あらためて秋田城のもつ交流拠点としての重要性を確認した。今後は、秋田城の変遷と石狩低地帯の動向を検討し、官衙の地域社会に果たした役割を考える。さらに、8世紀になると北海道では、擦文文化が成立する。土器様式の大きな転換や竪穴住居の変化などは、古代国家の影響がいかに強かったのかを示している。次年度は古代国家がオホーツク文化をどのように認識していたのかを考古学・文献史学両面から検討する。 4.の都城盆地では火山灰の年代分析をおこない、火山噴火が遺跡の動態に与える影響を考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古代国家の境域を網羅的に検討するのではなく、地域を5つに絞ったことにより、調査・検討が具体的かつ効果的に進められるようになった。また、研究会を開催することにより、一つの地域の分析視点や研究成果が、他の地域の研究を誘発することになり、研究手法の妥当性が検証された。 地域設定をおこなった5つの中で、3つの地域において、具体的な分析などにより、これまで見えていなかった新しい視点や分析方法などが見つかり、今年度、来年度の調査・研究に大きな弾みがついた。とくに、秋田城とその周辺の検討では、当初、予想していなかった北海道とのかかわりが明らかとなり、オホーツク文化までもが視野にはいるようになり、北方世界との交流ということで研究そのものスケールが大きくなったと考える。一方、同じことは南方世界についても言えるはずで、その検討の必要性を痛感した。また、北海道と九州南部という、どちらも古代国家の境域であるが、単純に比較しても、その様相がだいぶ異なる。その比較検討により、あらためて境域のもつ特質が明らかにできるという見通しをもつことができた。 また、研究の初年度で、横手盆地と都城盆地の類似性がおさえられたことは大きい。具体的な分析は、次年度のこととなるが、この点においても順調と言える。また、都城盆地では、年代的な研究のため火山灰の分析を実施できた。これをもとに環境や集落の動態などが検討できれば都城盆地という古代国家の西の境域の特徴が抽出できる可能性がある。 一方、初年度におこなえなかったこともある。大宰府とその周辺の調査・分析がほとんどできなかった。大宰府は、あまりにも調査が進んでいて、あらためて調査をする必要はないかと思っていたが、意外と本研究のような視点で意識的になされた研究はなく、もう一度、次年度にて体制を立て直したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、古代国家の東と西の境域に5つの地域設定をおこない、官衙や集落の動態、外の地域との交流の様相について調査・研究を実施していく。当然ことながら、5つの地域がもつ特徴は、それぞれ異なる。その地域にあわせた分析方法が必要である。 秋田城とその周辺は、北方世界との交流であり、その交流の具体的な様相を調査し深く分析していくことにより、境域の特質が明らかとなる。そして、古代国家と北海道とのかかわりを検討することができる。横手盆地と都城盆地は、この地域の遺跡・遺物・史料を詳細に比較し、共通する点、相違する点を整理していけば、それぞれの境域の様相は明らかとなる。さらに、その後の歴史展開に果たした、この二つの地域の役割を検討することにより、地域の特徴がより鮮明となり、本研究が目指す境域という視点からみた日本の歴史を考えることができる。大宰府とその周辺は、西海道の支配拠点としての大宰府の特徴を抽出すべく、どのような遺物が、どのような時期に、どのような地域から搬入されているのかを検討したい。また、大宰府が西海道諸国の支配にあたっていることを文献史料の上からも根拠となる史料で確認していきたい。日向国府とその周辺は、その特異な国府の成立の様相から着目した。ある時期、古代国家の西の境域の支配拠点ではないかと想定した。発掘調査でみつかっている遺構を丁寧に整理して、その変遷を、九州南部における日向・薩摩・大隅国の成立とからめて検討していきたい。 古代国家の東、北方世界との交流は、ある程度、分析ができつつあるが、日向国府、あるいは都城盆地と南方世界の交流の様相の検討は、まだ十分ではない。この点を次年度以降は意識して取り組む必要がある。
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