2018 Fiscal Year Annual Research Report
日本国憲法第9条における専守防衛法理の研究:自衛権論を超えた安全保障論
Project/Area Number |
18H00794
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山形 英郎 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80222363)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桐山 孝信 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (30214919)
奥野 恒久 龍谷大学, 政策学部, 教授 (40374756)
西川 由紀子 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (70584936)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本国憲法第9条 / 専守防衛 / 自衛権 / 武力行使禁止原則 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本国憲法第9条をめぐる議論は、もっぱら、自衛権を中心に行われてきた。自衛隊の存在を正当化する政府の論理が、自衛のための最小限度の実力を保持することができることを前提として展開されてきたからである。しかし、その一方で、国の方針として、国民感情を反映して、専守防衛論が採用されてきた。その意味するところが海外派兵を行わないという意味であるとすれば、自衛権を根拠とする必然性はないことになる。なぜなら、国際法上の自衛権は、武力行使禁止原則の例外であり、違法性阻却事由であるため、武力行使禁止原則に抵触しない武力の使用は合法な行為となり自衛権を援用する必要性はないことになる。そして、国際司法裁判歩が下したニカラグア事件判決からすれば、武力行使とは正規軍等の越境侵入をいい(侵略の定義に関する決議)、海外派兵を行わない国内での武力行使はそもそも国際法上違法でないとの推論が成り立つ。 専守防衛の法理は、自衛権に依拠するのではなく、国際法上の武力行使禁止原則から導き出されることを確認する作業を行っている。研究会を開催し、専守防衛に関する議論を集約しつつある。特に、国際法からは、ニカラグア事件判決の再点検を行っている。研究分担者はそれぞれの研究分野からアプローチを行い、専守防衛を基礎とする日本の安全保障政策の検討を行った。日本国憲法、国際法、そして国際政治学(平和学)の観点から、各自の研究関心にしたがい論文を発表するとともに、自衛権を越えた安全保障政策を求める論文を執筆し、刊行に向けた準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各参加者の研究は、かなりの進捗状況を示している。研究分担者は、それぞれ、専守防衛に関わる論点の多岐にわたり研究論文を発表したり、公刊したりしている。現在、本プロジェクトの参加者を中心に、「日本の安全保障政策:自衛権論を超えて」と題する書物の出版を計画している。国際政治学からは、今日の国際状況下における専守防衛のあり方を考え、政治制度論からは、専守防衛を支持する国内世論と現在の政策のずれを明らかにし、憲法からは、安倍政権下における積極的安全保障と専守防衛の関係を論じ、国際法からは、自衛権や武力行使禁止原則と専守防衛の関係、そして平和活動への参加を批判的に検討している。それぞれの論文はかなり集まっており、近日公刊できるものと考えている。 それ以外にも、研究分担者はである西川は日本の平和主義に関する書物を刊行し、奥野は、安倍政権による改憲をにらむ論稿を発表し、桐山は、国際法学者であり法哲学者であった恒藤恭の平和主義を研究してきている。研究代表者の山形が一番遅れており、別の研究プロジェクトに関連して南シナ海事件に関する論文を公刊したり、ASEAN紛争解決に関する口頭発表をしてきたが、そうした研究も一段落し、本プロジェクトに注力できるようになった。そのため、一層の進展が期待されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度中には、専守防衛に関する基礎的な検討を終え、本プロジェクトの研究書を公刊する予定である。そのために、意見調整会を行ったり、執筆された各章の批判的検討を行う研究会を今夏に開催し、刊行に向けた最終調整及び確認を行う予定である。しかし、専守防衛という我が国の防衛政策を法理にまで高めることはできておらず、自衛権を越えた理論とするためには、国内における武力行使の限界を研究することが必要となる。 まず第一に、国内における防衛目的の武力行使を、国内法上の法執行措置(又は警察権の行使)でどこまで説明できるのか、説明できないのかを明らかにする必要性がある。防衛力と警察力の区別をすることができるのかどうかという問題である。そして後者の場合、国際人道法の適用の有無も検討課題に入る。第二に、国内での武力行使は、すべて国際法上の合法行為となるのか、違法性を含んでいるのか、詳細を検討することが必要である。違法性がある場合、緊急事態等で責任を阻却させることができるかどうか。第三に、EEZや公海、公空など、領土外であるが、外国の領土には立ち入っていない場合、専守防衛で説明できるのか、そして国際法上の自衛権を用いずに説明できるのか、武力行使禁止原則の射程を明らかにする。 上記検討課題について、国際法を研究する山形・桐山が中心となって研究するが、平和学の観点から、現下の状況において専守防衛の実施可能性を追求するとともに、憲法学の観点から、専守防衛という考え方に基づいた自衛隊のあり方について研究の深化を図る。
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Research Products
(9 results)