2019 Fiscal Year Annual Research Report
日本国憲法第9条における専守防衛法理の研究:自衛権論を超えた安全保障論
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18H00794
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山形 英郎 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (80222363)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桐山 孝信 大阪市立大学, 大学院法学研究科, 教授 (30214919)
奥野 恒久 龍谷大学, 政策学部, 教授 (40374756)
西川 由紀子 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (70584936)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 個別的自衛権 / 自衛隊 / 専守防衛 / 武力行使禁止原則 / 集団的自衛権 / 日本国憲法第9条 / 国連憲章 / 警察力 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年末から今年にかけて発生した米国とイランとの間の限定的な武力行使に関し、国際法上の評価を行った。国際法上の自衛権を適用することの限界を示す目的で行った研究である。自衛権は、伝統的国際法においては、戦争開始の正当化事由であったが、国連憲章の下では、一つ一つの武力行使に分解して、それぞれの合法性を審査する基準となっている。1月3日、イランの革命防衛隊司令官ソレイマニ氏が米軍のドローンによる攻撃を受け爆殺された。その行為は、米国によって自衛権の措置であると説明されたが、殺害行為はイラクにおいて行われていた。イラクに対する違法な武力行使を構成することを明らかである。さらにイランに対する自衛権行使とみなすこともできない。イランから米軍に対する武力攻撃が最初に行われたとの証明が米国によって行われておらず、米国の主張は立証されていないことが明らかとなる。1月8日、今度はイランからイラクのアサド基地への攻撃が行われた。イラン側の説明によれば、これはソレイマニ氏殺害に対応する措置としてとられた自衛行動であった。しかし、こちらもイラクに対する違法な武力行使を構成する。また、ソレイマニ氏殺害行為が国際法上違法であるとしても、「規模及び効果」の点から判断して自衛権による正当化は困難である。このように、米国の行為も、イランの行為もどちらも自衛権による合法化は無理であり、いずれも国連憲章に違反する行為と断じられるという結論を導き出した。加えて、我が国の自衛隊派遣についても、いくつかの問題があることがわかった。①昨年12月27日閣議決定では「日本関係船舶」の安全を確保するための措置であると言われているが、自衛権を行使して保護できるのは日本国に登録された船舶のみであること。②一体化の議論は国際法上意味を有しないこと。③EEZにおける調査活動には沿岸国の同意が必要であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者及び分担者の論文を集めて書物として出版する計画を持っている。研究分担者からの論文はほぼ完成されており、代表者が一人出遅れている。日本国憲法第9条は自衛権を容認しているかどうかという点は憲法上の問題であり、国際法学者の研究には若干限界がある。また、国際法上、国内での武力行使に関する判例はなく、国際司法裁判所の判例においても国内における武力行使についての判断を回避している。ニカラグア事件判決においても、この問題は両当事者によって争われていないという事実から、検討されていない。そのため、国連憲章第2条4項が規定する「国際関係において」の文言を解釈する際に、多くの問題点を残しており、確たる証拠を集めることに苦労している。また、国連憲章第51条の自衛権と国家責任条文における自衛との異同について議論されることが少なく、議論の端緒をつかむのに苦労している。またコロナ禍の影響があり、研究会等を開催し参加者間の研究発表の機会を設けることができず、研究の進め方についての意思統一等に支障が出ている。3月に予定していた海外出張も取りやめざるを得ず、武力行使禁止原則や自衛権に関する戦間期の議論を集めることができなかった。 しかし、ソレイマニ氏殺害事件をはじめとした最近の事例研究は着実に進めており、2020年度に研究課題に対する成果を発表できるように準備を進めている。また、日本国、とりわけ安倍政権の防衛政策に関する研究を分担者が進めており、若干の遅れは見られるものの総合的には一定の成果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度中に「日本の安全保障政策:自衛権論を超えて」(仮題)を出版し、今までの研究の成果を世に問う予定である。今年度中の出版をめざして、最後の詰めを行っている段階である。ただし、2020年度前半期には、コロナの影響により研究会等を開催することができないため、Zoom等の会議システムを使い、オンラインでの研究打ち合わせを行わざるを得ない。対面での研究会とは異なり、意思疎通や理解の深化にはかなりの制約を受けることになるが、最善を尽くす。また、海外出張もどこまで可能となるか現時点では不明な点が多く、国内で可能な研究を進めていくしかない。研究分担者の一人が異動を期に研究チームから離れる。すでに研究成果は頂戴しているので、本研究には大きな支障とはならないものと信じている。 研究代表者の山形は、国連憲章第2条4項の「国際関係において」の文言の研究を進展させる。国内での武力行使がどのような場合にどの程度許容されるのか、それは自衛権以外で説明できるのかどうか究明する。分担者の桐山は、個別の武力行使ではなく、PKOなど国連が組織する、あるいは国連の授権を得た武力行使の研究をおこない、自衛隊が参加する際の問題点を明らかにするとともに、新たな国連政策を提言する。奥野は、憲法の観点から安倍政権の防衛政策を批判的に検討し、憲法9条の下で許容される防衛政策の許容範囲を明定し、憲法改正の限界点を「専守防衛」に見いだす試みを行う。それぞれの研究を持ち寄ることで、国連憲章が禁止する武力行使は、海外派兵を前提としており、自衛権も海外での武力行使を射程外においていること、「専守防衛」は、自衛権を持ち出さずとも許容される武力行使の限界を画する法理として、憲法上も国際法上も優れた理論であることを総合的にかつ包括的に検証する。
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Research Products
(7 results)