2019 Fiscal Year Annual Research Report
「noisyな経験財」のレモン市場問題:発展途上国の粗悪肥料問題を事例に
Project/Area Number |
18H00844
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
有本 寛 一橋大学, 経済研究所, 准教授 (20526470)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂根 嘉弘 広島修道大学, 商学部, 教授 (00183046)
荒神 衣美 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター東南アジアII研究グループ, 研究員 (40450530)
真野 裕吉 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (40467064)
塚田 和也 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センターミクロ経済分析研究グループ, 研究員 (80323476)
松本 朋哉 小樽商科大学, 商学部, 教授 (80420305)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | レモン市場問題 / 粗製肥料 / 経験財 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,消費者が消費後も品質を正確には知り得ない「noisyな経験財」が引き起こすレモン市場問題の実態を解明し,これを解決する政策手段を提案することである.事例として,発展途上国の粗悪肥料問題を取り上げる.成分が基準を満たさない粗悪な化学肥料が市場で蔓延し,農家はこれらの導入を控え,農業生産性が停滞している問題である. 2019年度は,ベトナムおよび東アフリカ(ルワンダ,ウガンダ,ケニア)それぞれで現地調査をおこない,行政,肥料の流通業者,および農家に対して,探索的な定性調査を実施するとともに,肥料のサンプルを一定量収集し,成分検査を実施した. ベトナムについては,2019年夏に現地に渡航し,政策・行政担当者,小売店,肥料メーカー,農家等に対して聞き取り調査をおこなった.この定性調査を通して,2017年に強化された粗製肥料の取締の実態や,民間流通網での対応の状況,また,農家からのフィードバックとそれに対する小売店の対応,といった諸事実が明らかになった.さらに,2018年度に収集した肥料サンプルの品質検査の結果が出揃い,多角的に分析をおこなった. 東アフリカについては,肥料市場の需要・供給の両サイドから不良肥料の問題を検証することを目的に,まず2019年11~12月にケニアとウガンダの農家に対して,肥料の使用状況および品質に対する認識に関する電話調査を実施した.ついで2020年2月に同地域で農業用投入財の取り扱い店を対象に,肥料の流通に関する調査の実施及び肥料サンプルの収集を行った.なお,肥料サンプルは成分分析を実施している国際アグロフォレストリーセンター(ナイロビ)で検査中である.また,ケニアにおいて政策担当者と会談し,この問題の調査・解決に協力して取り組むことで合意した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベトナムについては,2018年度までで得られた肥料検査の中間報告を現地関係者に対しておこない,重要なフィードバックが得られた.2019年夏の現地調査では,得られたフィードバックに基づいて,定性調査を実施することで,粗製肥料の流通と取り締まりを巡る社会経済的なコンテクストについて,全体像を掴むことができた.また,収集した肥料サンプルの品質検査の結果もすべて出揃い,現地で得られたフィードバックも反映して,多角的な角度から定量分析を終えることができた.以上,市中に出回っている肥料の品質の分布に関する定量的な分析結果と,粗製肥料の取り締まりに関する制度的枠組みの定性的な記述を融合させ,考察することができた.
東アフリカについては,2018年度にケニア,ウガンダ,ルワンダで収集した肥料サンプルの品質検査結果と,小売店の経営や肥料流通に関する調査データを組み合わせた情報を用いて数量分析を進めた.その結果,不良肥料の問題が予想以上に深刻であることが具体的に明らかになった.その研究内容は学術論文としてまとめており,現在,国際査読付き学術誌に投稿準備中である.また,2019年度に行った家計調査データ,小売店調査データ,肥料成分データを組み合わせ,農家の肥料使用,肥料の質に関する認識と,地域の肥料の不良の程度との関係を検証する分析を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ベトナムについては,これまで収集した材料を分析し,とりまとめて学術論文として投稿する.定量分析によって得られた,市中の肥料品質の分布と,それを規定する政策や民間の対応について,考察を深めることで,単に事実を明らかにするだけでなく,他国にとっても教訓となり得る政策的含意を引き出すことを目指す.その際,現地の社会経済的コンテクストを踏み外さないよう,できる限り現地の政府関係者や研究者たちと緊密に連携し,フィードバックを得て分析と考察を深めることとしたい.さらに,これまでの調査から,応用ミクロ経済学の理論的に深めていくべき論点もいくつか見出された.これらの点について,理論的な検討も進めて行きたい.
東アフリカについては,これまで収集したデータの解析を引き続き継続し,肥料市場の需要・供給両サイドから不良肥料問題を検証する.2018年度に行った肥料成分検査から,不正肥料問題が予想以上に深刻であることを示す結果が得られたが,近隣国を対象とした先行研究の結果と比較すると,大きな乖離がある.本研究の信頼性を担保するため,肥料成分の調査を再度行うことを検討している.結果を学術誌に投稿するだけでなく,調査対象国の政策担当者とも共有し,不良肥料問題を解決するための知的情報基盤を確立する.また実際に解決するための方策についても検討したい.
|