2020 Fiscal Year Annual Research Report
「noisyな経験財」のレモン市場問題:発展途上国の粗悪肥料問題を事例に
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18H00844
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
有本 寛 一橋大学, 経済研究所, 教授 (20526470)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂根 嘉弘 広島修道大学, 商学部, 教授 (00183046)
荒神 衣美 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター東南アジアII研究グループ, 研究員 (40450530)
真野 裕吉 一橋大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (40467064)
塚田 和也 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センターミクロ経済分析研究グループ, 研究員 (80323476)
松本 朋哉 小樽商科大学, 商学部, 教授 (80420305)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 粗製肥料 / 品質検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年2月に,ケニアの主要穀物生産地域の肥料販売業者から,肥料サンプルを収集し成分調査を行った.サンプル収集は委託した.収集地域は,主要穀物生産地域をカバーするよう,首都ナイロビからウガンダ国境までを繋ぐ2本の幹線道路A104及びB3沿いの街,および反偽造局(Anti-Counterfeit Authority)が西部地域で粗悪農業インプットキャンペーンを行う対象3郡の主要な市場とした.収集には,一般客を装い肥料を購入する方法(mystery shopper approach)を採用し,街毎にランダムに選んだ店舗から調査補助員が肥料サンプルを一店当たり1-2個購入した.購入した肥料は,リン酸二アンモニウム(DAP)199標本,窒素-リン酸-カリウム配合肥(NPK Compound)53標本,硝酸アンモニウムカルシウム(CAN) 2標本の合計254標本あった.購入の際に,店舗の大きさ,店舗場所(GIS)及び肥料サンプルの種類,ブランド,重さ,包装の状態などの属性情報も併せ収集した.収集した肥料サンプルは,農業専門の検査機関に成分検査を依頼した.成分検査は,湿式化学分析で行い,肥料の主要成分であるアンモニア態窒素,五酸化二リン,酸化カリウム,酸化カルシウム等の含有比を計測した. データ解析は現在進行中であるが,表示成分よりも実際の含有成分が低いサンプルが一定割合存在することを確認した.また,肥料含有成分と販売店・肥料サンプル属性との相関を検証すると,小売店で収集されたサンプルは,卸売店に比べて成分不足している傾向にある.販売パッケージサイズ,重さあたり単価,販売店で再梱包された商品か否かは,肥料含有成分と無相関であった.今後更なる検証を進め粗悪肥料問題の根本原因を突き止め,粗悪品排除のための効果的な施策を考案したいと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では,アフリカでの肥料調査は2020年度に完了する予定であった.しかし,新型コロナ感染症のため調査をたびたび延期せざるを得ず,また,2022年についても大統領選挙による治安悪化の懸念から,現地でのサンプル収集ができず,2023年2月というぎりぎりのタイミングでの調査実施となった.また,データの入手時期が遅れたため,結果的にデータ分析や論文取りまとめも予定からずれ込むこととなった. このように調査実施は予定から大幅なスケジュール変更を迫られたが,研究に必要なデータそのものについては,予定通りに肥料サンプルを収集し,品質検査の結果も入手することができた.計画の遅れを取り戻すべく,急ピッチでデータ解析を進めた結果,初期的な結果は提示できたが,今後より詳細な分析を進めていく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では,初期的・探索的なデータ解析しかできておらず,肥料の品質の規定要因の定量的な検討を今後,より本格的に進めていく予定である.同時に,現地での反偽造局の取組などの制度的・政策的な施策についても調査を進め,その効果検証も行うことを検討している.これらを総合して,効果的な粗製肥料対策の立案に向けた分析や提言を行っていく. また,アフリカの粗製肥料については,品質検査の手法に問題があり,実際の肥料品質は良好であるという指摘もある.こうした指摘が挙がっている既存研究は,中赤外分光法という手法を使っている.これは一部のサンプルに対して湿式化学分析を行い含有成分を計測し,その計測値をカリブレーションの参照値とし,サンプルの赤外線反射光の測定値を用いて含有成分を推計するものである.この分析手続きにあたって,カリブレーションの方法などに問題があるのではとの指摘があり,アフリカでの肥料品質に問題があるのか否かというという根本的な事実について,疑義が呈されている状況である.本研究は分析精度が高い湿式化学分析を行っており,そのなかで成分不足の肥料サンプルを発見していることから,こうした論争に新たな知見を提示できると考えられる.今後,含有成分の計測の問題を提起した研究者らとも意見交換して,この論争に一定の決着をつけることを試みたい.
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