2019 Fiscal Year Annual Research Report
環境再生デザインの公共社会学:修復的環境正義の実践的理論構築に関する研究
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18H00920
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福永 真弓 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (70509207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 康司 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (20316334)
富田 涼都 静岡大学, 農学部, 准教授 (20568274)
鬼頭 秀一 星槎大学, 共生科学部, 教授 (40169892)
宮内 泰介 北海道大学, 文学研究院, 教授 (50222328)
友澤 悠季 (西悠季) 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (50723681)
大倉 季久 桃山学院大学, 社会学部, 准教授 (90554147)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地域再生 / 排除と包摂 / 白紙の未来形式 / 社会実験 / 環境正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、年度の後半(9月)から予定していた研究途中経過の発表については、香港暴動およびコロナの広がりによる国際学会と国際研究会の延期によって困難になった。そのため、予定されていた研究途中経過での理論的な検討や、事例の比較検討については。各個人研究を進め、適宜研究グループ内での議論をテレビ会議システムなどを用いながら行うこととした。予定されていた国際会議については、延期開催や別の国際会議へ対応するため、科研の繰り越しを早めに決断した。 各分野ごとの研究は以下の通り進捗した。 1)被災や公害・開発後の環境再生の過程について、歴史的にどのような排除・包摂や被害と格差の再生産の機制がなされてきたのかについては、主に①公害史における法制度からの検討、②開発と再生の論理の結合の2点から明らかにした。環境のポテンシャルが減少することによって、いかに地域社会の脆弱性とリスクが高まるか、その評価自体についても、②が困難にしていることも明らかになった。 2)こうした機制の再生産のメカニズムを、社会的想像力の再生産メカニズムとの連関で分析し、「白紙の未来形式」と環境言説の結合した社会的想像力の所在について、その1980年代以降の変化を含めて明らかにした。同時に、いわゆるエコロジー思想や有機農業運動にみられる、対抗的・社会的想像力の系譜をあわせて検討する重要性が浮上した。 3)社会実験の事例蓄積とその分析をすすめ、環境正義については、事業の段階とPCDAサイクル都連労する形で、多様な種類の正義が、段階によって異なる重要度をもって現場に現れることが明らかになった。社会の構造的不正義(ジェンダーやウェルビーイングに関わる)社会的公正に広げながら、環境正義の「見取り図」を刷新する必要性も明らかになった。次年度につながる重要な研究成果となったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は個別研究を進めながら、全体の議論の進捗をグループごとに報告していくことが研究の要であった。8月以降、香港暴動の激化によって、香港中文大学で行う予定だった共同研究会と国際学会については延期となった。また、年度末に台湾で予定されていた国際会議も、コロナの進展によって中止となった。そのため、こうした発表の場で議論をもむ機会が減少してしまったのは、予定外の出来事だった。当初、使用予定だった旅費については繰り越しを選択した。その分、進捗状況としてはやや遅れている状況にある。 しかしながら、個別研究と各分野ごとの分析はその分進めることができた。本研究の目的のうち、「(1)被災や公害・開発後の再開発・環境再生の過程で、どのような加害・被害構造、排除・包摂の機制と格差構造の(再)生産がなされてきた/いるのかを明らかにする」という点においては、歴史研究から「社会的想像力」という概念に着目して議論を進めるべきことが新たに明らかになった。当時予定していた、懐古型開発主義の分析の核となる概念である。また、この点については、「緑の社会的想像力」という形で、海外でも議論が同時多発的に行われており、国際的な展開性も見込まれる。実際に、すでに国際研究グループでの議論が始まっている。 もう一つの目的、「(2)こうした再生産を克服する理論構築と制度設計を、社会実験を通じて模索し、SDGsと社会学の接点から新たな規範的基礎・実践枠組みを提案すること」については、社会実験の事例が蓄積され、合意形成や意思決定過程の「手前」の段階をどう考えるかが重要な焦点となることが明らかになった。この焦点が、前述した「社会的想像力」が平生いかに培われるか、というもう一つの論点の所在も明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は国際学会や国際共同研究会を開催しつつ、新しく見いだされた研究の焦点をさらに深めたい。特に以下の3つについて研究を推進する。 1)科学技術、未来の白紙形式、社会的想像力の関係性について、開発レジームの再生産の歴史をおいかけながら明らかにする。「懐古型開発主義」と「災時便乗型・災害資本主義」という二つの分析軸を立てようとしてきたが、懐古と災害便乗という文脈と密接に関連しながら、現在非常に力を持ち始めた「持続可能性」という軸について研究を進めたい。 2)開発の繰り返しによる環境のポテンシャルの減少と、地域社会の脆弱性・リスク増加のフノルパイラルについて、①公害補償再生型、②開発補償再生型、③リスク回避型という枠組みを再考しながら、研究を進めたい。特に、こうした再評価それ自体が、それぞれの類型において、どのような制度設計のもとにあり、何が問題となってきたかについて明らかにしたい。 3)こうした開発の繰り返しの評価をする際に、科学的な観点のみならず、地域に生きる人々の「人間以外の生きものへの感性と感度、および環境に関する知識と技術の日常的蓄積」に着目する。狙いは、「生きものと生物多様性」という、世代を超えて人間活動を客観的に評価しうる軸について考えてみることだ。公害や災害の跡地再生の現場で、有機農業や沿岸漁業などの、環境持続型第一次産業を行う人々の言説を素材として、分析と議論を行う。 4)環境正義の概念を、日常的な「人間の存在の豊かさの保障」をなす概念として再設計できるよう、事例分析を踏まえて理論の深化をはかる。その際には、1)の議論を踏まえながら、逆説的に「非日常・想定外に備えられる環境正義の実現のための日常」を育むにはどのような社会設計が重要なのかについても議論を進めたい。
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Research Products
(22 results)