2018 Fiscal Year Annual Research Report
鶴見和子の内発的発展論を「受苦と共生の社会運動論」として現代に再考する実践的研究
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18H00939
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Research Institution | Kyoto Bunkyo University |
Principal Investigator |
杉本 星子 京都文教大学, 総合社会学部, 教授 (70298743)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平岡 聡 京都文教大学, 臨床心理学部, 教授 (20269749)
佐藤 量 立命館大学, 先端総合学術研究科, 非常勤講師 (20587753)
加藤 千香子 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (40202014)
高石 浩一 京都文教大学, 臨床心理学部, 教授 (40226733)
小林 康正 京都文教大学, 総合社会学部, 教授 (40288684)
吉村 夕里 京都文教大学, 臨床心理学部, 教授 (50388211)
鵜飼 正樹 京都文教大学, 総合社会学部, 教授 (70192507)
鶴見 太郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80288696)
黒宮 一太 京都文教大学, 総合社会学部, 准教授 (80449561)
猿山 隆子 京都造形芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (90774555)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 内発的発展論 / 社会思想史 / 共生 / 社会運動論 / 鶴見和子 / 水俣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、京都文教大学に寄贈された鶴見和子文庫のデータベース化を通して、鶴見が生涯をかけて考え続けた内発的発展論の軌跡を明らかにし、鶴見の内発的発展論を「語る・聴く・書く・読む」という言葉の共有を通した「受苦と共生(ともいき)の社会運動論」として戦後の社会思想史のうちに位置付け直すことにより、少子高齢化や社会格差の拡大、多数の震災被災者の発生と地域の多文化化の進行によって社会的弱者が多数化する現代社会において、鶴見の内発的発展論を「受苦の共感」とそれを通した「創造的な共生(ともいき)社会」の構築に向けた社会運動論として批判的かつ実践的に継承することを目指している。 今年度は、①鶴見和子文庫のなかの水俣病公害問題に関するデータベース化を進め、②共同研究会とフィールド調査をとおして、水俣公害闘争を当時の地域闘争の一つとして位置づけ直し、鶴見が水俣との関係のなかで構想した内発的発展論を再検討した。さらに、③現代社会の縮図ともいえる諸問題を抱えた京都南部のニュータウンに暮らす東日本大震災避難者、中国帰国者、障がい者への聞き取り調査を行うとともに、彼らの社会参画を促すことによって、受苦を抱えるマイノリティを包摂する「創造的な共生社会の構築」にむけた実践的研究を実施した。 社会の多文化化が進むにつれて社会が内向きに閉じ非寛容と排他性の傾向を強めている現代社会において、異質な他者の包摂が可能な社会の構築に向けた社会理論が強く求められている。鶴見和子の内発的発展論を現代社会において捉え直し、多様な住民を内包する共生社会がもつ可能性と創造性について考察し、実践を踏まえて理論化を目指す本研究には、大きな現代的意義と社会的重要性があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗状況について ① 鶴見和子文庫のデータベース化や文庫の公開に向けたシステムや規約づくりについては、予定通り進んでいる。とりわけ資料の劣化による破損が懸念されていたわら半紙にガリ版刷りの不知火海総合調査と水俣公害闘争に関連する資料についてはほぼデータベース化が終わった。また、規約の整備、閲覧申込書等の作成に向けて、データベースを公開している他の資料館の事例収集などを行ない、原案の具体的な検討までいっている。この分野については、計画以上に進展しているということができる。 ② 今年度は3回の共同研究会を実施し、鶴見和子文庫所蔵資料に関する情報および共同研究メンバーの研究テーマと研究内容について情報交換を行ない、学際的な議論を行なうための研究基盤をつくることができた。また、講師を招聘しての研究会では、水俣の患者やその運動を支える水俣外の地域の一つとして重要な役割を果たしてきた京都の支援者と水俣の人びととの関係の今に繋がる系譜と展開について議論することができた。また、来年度に計画されている水俣での共同調査の準備として二人のメンバーが水俣へ行き予備調査を行った。 ③ 京都南部の向島ニュータウンにおける福島からの震災避難者、中国帰国者、障がい者等への聞き取り調査を行い、彼らを含めたまちづくり活動に参画することにより実践的な研究も進めている。 今年度はまだ研究成果の社会的還元までには至っていないが、全体として研究は順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は大きく以下の4項目を軸に進めていく計画である。 ① 京都文教大学鶴見和子文庫所蔵資料のデータベース化と文庫資料の一般公開に向けた作業の継続的実施。京都文教大学鶴見和子文庫には、鶴見和子の蔵書とともに鶴見のフィールドノートとそれを整理したノート類、書簡、関連団 体の活動報告書、抜き刷り等さまざまな種類の資料が収蔵されている。なかには個人情報が多く、どのように公開するか、どこまで公開できるかなど、公開の実施に向けては検討課題が多い。これについては、今後も研究会で慎重に議論を重ねていきたい。 ② 共同研究会の開催と水俣における共同調査の実施。現地調査は基本的に共同研究メンバー各人がそれぞれのテーマで進めていくが、来年度は夏に現地で合宿を行い、全員で水俣公害闘争と関連した場所や施設を視察した後、水俣の地域住民を交えてディスカッションをする予定である。 ③ 共同研究会の一端として公開講演会もしくは公開シンポジウムの実施。来年度秋に、水俣公害闘争と他地域の支援者との関係をテーマに講演会もしくはシンポジウムを実施し、水俣を写した写真家や京都の支援者と水俣の人びととの繋がりを具体的に取り上げることで、現代社会において改めて水俣を考える機会をつくり、本研究の成果の一端を社会に還元する。 ④ 科研終了後の成果報告の出版に向けた編集会議と成果報告のまとめ作業。今年度の研究会で共同研究メンバー各人の執筆の分担について話し合った。来年度は、各人の研究の進捗状況を確認しながら、出版に向けた具体的な作業を行なう予定である。
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Research Products
(7 results)