2018 Fiscal Year Annual Research Report
児童の代替的ケアをめぐる国際比較研究-日本、韓国、イギリス、ドイツを中心に
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18H00950
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Research Institution | Fukuoka Prefectural University |
Principal Investigator |
細井 勇 福岡県立大学, 人間社会学部, 教授 (70190204)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 茂起 甲南大学, 文学部, 教授 (00174368)
三原 博光 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 教授 (10239337) [Withdrawn]
伊藤 篤 甲南女子大学, 人間科学部, 教授 (20223133)
三上 邦彦 岩手県立大学, 社会福祉学部, 教授 (20381311)
阪野 学 大阪成蹊短期大学, 幼児教育学科, 准教授 (50773636)
西澤 哲 山梨県立大学, 人間福祉学部, 教授 (90277658)
稲葉 美由紀 九州大学, 基幹教育院, 教授 (40326476)
杉野 寿子 福岡県立大学, 人間社会学部, 教授 (30412373)
鬼塚 香 福岡県立大学, 人間社会学部, 講師 (60735992)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 児童福祉 / 児童ケア / 社会的養護 / ソーシャルペタゴジー / 国際比較 / 代替的ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年1月の第1回日本ソーシャルペタゴジー学会の後を受けて、『児童養護』は「社会による子育て」の特集を組むことなり、細井は「(社会による子育てを考える)ソーシャル・ペタゴジーとドイツの児童福祉の紹介を通じて」を49-1号に発表した。2018年8月7日、三上が中心になり、岩手県立大学でバーナードズのキング氏を招いて国際シンポジウムを開催し、細井も報告した。2019年3月には報告書「英国のボランタリー団体におけるソーシャルワーク実践」を刊行した。 2019年1月27日には、甲南大学にして第2回日本ソーシャルペタゴジー学会が開催され、森、細井ら報告した。2019年3月2日、細井は第10回の福岡県立大学社会福祉学会を企画し、福岡市児童相談所えがお館長藤林氏と石井十次記念友愛社の児嶋氏を招き、「新しい社会的養育ビジョン」をめぐって鼎談を行った。直後、細井はフィリピンを訪問、NGOの代表バルベロ氏と会い、国際的ネットワークに支えられたストリートチルドレンの支援に学んだ。 2019年3月末には、共同研究者の7人(森、伊藤、細井、杉野、鬼塚、稲葉、三上)がスコットランドとロンドンを訪問した。ソーシャルペタゴジーの研究・研修機関であるCELCIS(グラスゴー市内)やKibble等の施設を訪問した。エジンバラにも出向き、ソーシャルペタゴジー研究の第一人者スミス教授とも面談した。その後、ロンドン大学の教育研究所でキャメロンとパトリエ両教授と面談、イギリスの児童ケアの動向を確認した。さらにバーナードズ・メイキングコネクションを訪問し、ケア記録の保管と開示、とくに記録保護法の改正への対応を確認した。養子縁組支援機関アダプションプラスも訪問し、多くの新たな知見を得ることができた。イギリス訪問調査の成果については、2019年7月に予定される第3回日本ソーシャルペタゴジー学会で報告を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
できるだけ多くのメンバーでイギリスを訪問、児童ケアと教育を一体化するソーシャルペタゴジーのイギリスへの導入について知見を得たいと計画していたが、この点は予想を超える成果を得ることができた。CELCISの国際部長ミリガン氏が3日間の集中した研修プログラムを企画してくれたからであった。ロンドン大学研究所やバーナードズ訪問も実現し、アタプションプラスの訪問は計画になかったがその実践は刺激的であった。 バーナードズの関係者を招聘しての国際シンポジウムも開催できたが、当初の計画にはなかったことである。福岡県立大学社会福祉学会では、社会的養護のあり方についてをテーマに取り上げ、施設側と児童相談所側との意見交換の場とすることができた。これも当初の計画にはなかったことであった。 以上は、当初の計画を越えることであり、児童ケアの国際比較のための知見を飛躍的に進展させることができた。 『児童養護』に「社会による子育て」を書き、初めて「ソーシャルペタゴジー」について紹介することができたこと、第2回ソーシャルペタゴジー学会で森、細井が報告できたのは計画通りであった。 その一方で日韓比較研究は進展しなかった。双方の日程の調整がつかなかったからである。また、韓国の自立支援援助マニュアルに注目し、その翻訳刊行を図り、施設関係者に配布するという計画は実現しなかった。著作権の調整は困難であり、また政府の刊行物ということもあり、翻訳刊行が実現しなかったからである。 なお、今回のイギリス訪問を通じて、各国の児童養護施設3~5か所選定し、アンケート調査するという当初の研究方法には再検討の余地があると考えるようになった。各国の児童ケアにおける施設ケアの位置づけはあまりに異なる。文脈の違いを無視して施設ケアのみを取り上げて比較するよりも、子育て支援と児童保護を連続して捉える視点こそが重要であると認識したところである。
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Strategy for Future Research Activity |
児童の代替的ケアをめぐる国際比較研究-日本、韓国、イギリス、ドイツを中心に-がテーマであるが、そのモデルは、ロンドン大学教育研究所TCRUが行った福祉レジームの観点から施設ケアの国際比較研究であった。1年目のイギリス訪問により、イギリスとドイツというかなり特徴的な国を取り上げることの不十分さを再認識したので、2年目は社会民主主義レジ-ムのノルウエーを訪問し、3年目にはベルギーとドイツを訪問することにしたい。 また、イギリス、北欧では代替的ケアに占める施設ケアのウエイトは低く、ドイツ、日本では高い。スコットランドでは、子育てから援助、緊急保護までが、それも教育と連続して展開されていることを確認した。そこで、施設ケアのみではなく、より包括的な視点の重要性を再認識した。日韓比較研究でも、施設ケアの比較というよりは、子育て支援を含むより広い視野からの比較研究を行っていきたく考えている。 また、本共同研究を国際的ネットワークの中で展開していくべく、国際的な児童ケアの協議会FICEや、イギリスのソーシャルペタゴジーの連絡協議会SPPAへの参加を目指していきたい。 今後も研究成果を日本ソーシャルペタゴジー学会等の学内学会及び関係国際学会で報告していきたい。 最終的には、当初比較項目として挙げた9項目、すなわち、①養育支援と緊急保護との関係、②保護手続きにおける民間団体と行政機関と司法機関の関係、③代替的ケアの形態と相互の関係、④施設ケアの方法と内容。⑤里親ないし養子縁組機関の実践、研修制度、⑥ケア・リーヴァーへの支援、⑦ケア記録の保管と開示方法、⑧職員の資格制度、勤務形態、⑨専門職養成教育等についての国際比較研究を、対象国を拡大し、視野も広げながら、可能な水準ま到達することを目指していきたい。また、その成果をひろく関係者と共有し、日本の社会的養護改革に貢献していきたい。
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