2019 Fiscal Year Annual Research Report
学校的社会化の理論的・経験的研究-「児童になる」論理と実践の教育社会学的探究
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18H00990
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
北澤 毅 立教大学, 名誉教授, 名誉教授 (10224958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
有本 真紀 立教大学, 文学部, 教授 (10251597)
間山 広朗 神奈川大学, 人間科学部, 教授 (50386489)
鶴田 真紀 創価大学, 教育学部, 准教授 (60554269)
小野 奈生子 共栄大学, 教育学部, 准教授 (90615973)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教育社会学 / 歴史社会学 / 構築主義 / エスノメソドロジー / 学校的社会化 / いじめ / 発達障害 / 子ども観 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、研究実施計画に基づき、<A>「学校的社会化」に関する理論的・経験的研究、<B>発達障害研究、<C>「学校的社会化」に関する歴史社会学研究を行った。 <A>では、学校における社会化現象への考察を深めるために、学校建築の有り様と、その場で生起する相互行為の関係に着目した議論の可能性を探究した。具体的には、特徴的な建築様式を有する日本の公立小学校の参与観察を行うとともに、アメリカの公立小学校を訪問し、比較調査の可能性を探った。経験的研究としてはさらに、関東地方の小学校・幼稚園、中国地方のこども園でのフィールドワークを実施した。その成果として、小学校・幼稚園の教育場面における学校的な相互行為形式に着目して、「児童であること」や「園児であること」を実践する方法の一端を描き出した。 <B>では、関東地方の公立小学校において実施した、特別支援学級に在籍している児童の観察調査から、インクルーシブ教育を志向する実践において、教員がいかにして発達障害児の個別のニーズを認識し、教育的支援を実践しているのかを明らかにした。また、発達障害児の「問題」が立ち現れる状況を検討し、そこにおいて必要とされる、特別支援学級担任、交流学級の学年担任や支援員たちの連携のあり方について考察した。さらに、小学生時に特別支援学級から普通級へ転籍し現在高校生となる生徒(以下、生徒A)を対象に「発達障害」という周囲の人びとの認識がいかに維持され、いかなる揺らぎが生じていたのかを考察した。 <C>では、小学校において教師が集団を管理する方法として用いてきた罰、児童個人の成績および行動や性質を記録した表簿、児童虐待の問題化に注目し、「児童になること」「児童にすること」の歴史的経緯について分析を行った。 以上の調査研究の進展に伴い報告書を発刊できた。また、学会機関誌や大学紀要を中心に、成果を公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の「研究の目的」を遂行するために、<A>「学校的社会化基礎研究」、<B>発達障害研究、<C>「小学1年生の誕生」および「児童観」の変容に関する歴史社会学研究の、3つのテーマを設定した。 <A>については、関東地方の公立小学校の1年生を対象としたフィールドワークを行い、授業場面や学級活動における教師と児童の相互行為に関する経験的データを収集することができた。また、幼保小の接続問題に関連して、関東地方の私立幼稚園と中国地方の私立こども園でのフィールドワークとビデオ撮影調査を実施し、初期学校的社会化の様相を解明するためのデータ収集を行い、分析に着手できた。さらに、「学校的社会化」現象を多角的に検討していくための比較研究として、アメリカの公立小学校を訪問し、今後の調査の実施に向けて、現在準備を進めている。 <B>については、同じく関東地方の公立小学校で特定の発達障害児に着目し、1年間を通じて継続的なフィールドワークを行った。また、発達障害児本人の学校経験の意味づけや、学校とは異なる場での様子も理解するために、発達障害児本人や家庭教師にインタビュー調査を実施した。さらに、生徒Aについては、インタビュー調査をもとに学会での成果発表を行った。 <C>では、青森、鳥取、熊本において学校文書の調査を実施し、小学校入学前後の児童の取扱い、児童個人の成績および行動や性質を記録した表簿を中心に一次史料を収集した。また、「児童観」の変容を多角的に捉えるために、明治・大正期の教育書、教育雑誌記事の体系的な整理にも着手した。 これらの調査研究の進展に伴って、学会発表や学術論文執筆を行い、各領域の研究成果を蓄積するとともに、報告書を作成した。以上、2019度の「研究の目的」を、おおむね順調に進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の調査研究の進展や研究成果を基礎として、以下、研究領域ごとに今後の研究の推進方策を述べる。 <A>「学校的社会化」を理論的・方法論的に深めるための文献研究を行うと同時に、幼稚園・小学校を中心とする教育機関調査と、いじめ問題調査を軸とする経験的研究を行う。教育機関調査は、幼稚園・小学校でのビデオ撮影を含むフィールドワークを継続し、「学校的社会化」の様相を観察する。さらに、今年度より教育機関の日米比較調査を予定している。調査協力校(ボストン近郊公立小学校)には2019年度に訪問済みであり、現在調査実施調整中である。「いじめ問題」については、2012年に社会問題化した「大津いじめ自殺事件」に関する研究成果を編著として刊行を目指しつつ、補足的な調査を実施する。 <B>これまでの事例研究を継続しつつ、収集済みデータの分析と論文化に取り組む。具体的には、小学校6年間にわたって観察調査を行った発達障害児を対象に、進学先の中学校でのさらなる観察を試みる。また、生徒Aおよびその保護者へのインタビューも定期的に実施し、インタビューデータと育児記録を分析し、論文化を目指す。さらに、新たなフィールドとして、発達障害児への学習支援を実践しているNPO法人での観察も計画しており、調査実施に向けて調整を行う予定である。 <C>「学校的社会化」の歴史の解明に向けて、罰、試験、人物評価、児童虐待などの切り口から、主に言説分析の手法によりアプローチする。特に、明治期から高度成長期にかけての一次史料と教育書、教育雑誌を収集分析し、小学一年生を行政、学校、保護者がどう扱ってきたのかを歴史社会学の視点から考察する。 以上、<A>から<C>までの研究を実施することで、学会発表、学会誌への論文投稿、大学紀要などでの論文執筆を進めることはもとより、編著や単著の刊行を目指している。
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Remarks |
本科研課題に関して、以下の研究成果報告書を公刊した。 北澤毅、有本真紀、稲葉浩一、越川葉子、矢島毅昌、早坂めぐみ、水谷智彦、保坂克洋、今井聖、粕谷圭佑、高嶋江、井出大輝、平井大輝、岩佐菜々子,2019,『学校的社会化の歴史と現在―児童になるとはどういうことか―』(2019年4月30日、東京都豊島区西池袋3-34-1 立教大学文学部 北澤研究室・有本研究室)
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Research Products
(24 results)