2019 Fiscal Year Annual Research Report
Analysis and geometry of fractals and stochastic processes on them from field-transverse viewpoints
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18H01123
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
梶野 直孝 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (90700352)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 大典 京都大学, 情報学研究科, 准教授 (00647323)
中島 誠 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (60635902)
田中 亮吉 東北大学, 理学研究科, 助教 (80629759)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フラクタル上の解析学 / フラクタル上の確率過程 / エネルギー測度 / ランダム媒質中のディレクティドポリマー / 自由エネルギー / フラクタル幾何学 / 3次元一様全域木 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は研究代表者の梶野および研究分担者の中島・田中・白石がそれぞれ研究計画調書に記した担当課題(1)~(7)および関連する新たな研究課題について,国内外の研究集会やセミナーに参加し研究発表および情報収集を行った. 課題(3)「エネルギー測度」については梶野がBritish Columbia大学のMathav Murugan氏と共同研究を行い,「上下からの劣Gauss型熱核評価を満たす対称拡散過程に対しそのエネルギー測度は対称測度に関し特異である」という20数年来の未解決予想を証明した. 課題(5)「フラクタル上の拡散過程を土台にした統計物理モデルの解析」については,梶野および中島が神戸大学理学研究科博士課程前期課程の小西航生氏と,ランダム媒質中のディレクティドポリマーの自由エネルギーに関し共同研究を行った.その結果,まずSierpinski格子グラフの場合に自由エネルギーの高温度での上下評価が1次元整数格子に対する既知の結果を拡張する形で得られ,さらに同様の結果を一般の無限グラフに対しても体積増大度や有効抵抗に関する適切な条件の下で証明できる見通しを立てた. 田中はフラクタル幾何学とも深い関連を持つKoebe-Andreev-Thurstonによるサークルパッキング定理の離散調和写像類似について研究を行った.これは離散調和関数の研究の非線型問題版である. 白石はBritish Columbia大学のOmer Angel氏とSarai Hernandez-Torres氏および京都大学のDavid A. Croydon氏との共同研究において,3次元一様全域木のスケール極限の存在およびその諸性質を証明するとともに,その応用として一様全域木の上のランダムウォークの研究も行い,これらの結果を論文( https://arxiv.org/abs/2003.09055 )にまとめ投稿した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記「研究実績の概要」に記した研究成果の中でも,課題(3)「エネルギー測度」についての20数年来の未解決予想は本科研費研究課題の開始以前から念頭にはあったものの解決の見通しは2019年度以前には全く立っておらず,この度解決に至ったことは極めて大きな進展でありこれだけでも当初の計画以上の進展と評するに値すると思われる. 課題(5)「フラクタル上の拡散過程を土台にした統計物理モデルの解析」についても,Sierpinski格子グラフに対する結果を得る段階まではほぼ当初の計画通りであったが,その後の考察により適切な条件を満たす一般の無限グラフへの拡張の見通しが立つとまでは年度当初には予期しておらず,その意味で当初の計画を幾分上回る進展があったと評価できる. 一方2018年度から取り組んでいた課題(6)「Liouville Brown運動の解析」については,Cambridge大学のSebastian Andres氏およびJason Miller氏を訪問する機会を見付けられなかったこともあり2019年度中には本質的な進展がなく,この課題に関する限りは研究の進展は遅れ気味であるといわざるを得ない. 研究計画調書に記した当初からの具体的な研究課題のうち田中・白石と梶野の協力を想定していたものについては残念ながら解決の見通しを立てることはできなかったものの,それらはいずれも既存の研究にはない本質的な困難の克服を要求する性質の課題であり解決の見通しが容易に立つようなことは元々想定していないため止むを得ないと思われる.田中・白石の両名ともに関連する新たな研究課題を独自に見出し精力的に研究を行ってはおり,本科研費研究課題の目的は果たせていると評価してよいと思われる. 以上の経過から,遅れ気味の研究課題もあるが当初の計画を大きく上回る進展を見せた研究課題もあり,全体としては計画以上の進展があったと判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
まず課題(5)「フラクタル上の拡散過程を土台にした統計物理モデルの解析」については,ランダム媒質中のディレクティドポリマーの自由エネルギーの高温度での上下評価を一般の無限グラフに拡張することを目標に梶野と研究分担者の中島が協力して研究を進める. 課題(6)「Liouville Brown運動の解析」については実は2020年4月以降の進展により上下からの劣Gauss型熱核評価が期待された形で証明できる見通しが立っており,そこで引き続きCambridge大学のJ. Miller氏および2020年4月にManchester大学に異動されたS. Andres氏を招聘あるいは訪問して議論を重ね,証明および論文の完成を目指して検討を続ける. 課題(3)「エネルギー測度」については2019年度に得られた結果にはエネルギー測度が特異になるかどうか不明な状況が一部に残っており,そこでこの点を含めた完全な解決を目指してBritish Columbia大学のM. Murugan氏を招聘あるいは訪問し共同研究を行う. 研究計画調書に記したその他の課題および関連する新たな研究課題についても,引き続き国内外の研究集会に出席して近年の研究の進展に関する情報の把握に努めるとともに,研究分担者の田中,白石と梶野の間での研究打合せにより解決に向けて努力する. そして研究計画調書に記した通り,本研究の基本的立場である「分野横断的視点」の普及による数学の一分野としてのフラクタル研究の全体的な発展を実現するための第一歩として,2020年度にはフラクタルおよび特異距離空間の解析・幾何に関する国際研究集会を日本国内で開催し,フラクタルに関わる様々な分野の研究者を講演者として国内外から多数招聘し研究交流の促進を図る.
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