2018 Fiscal Year Annual Research Report
刺激応答性分子探針による界面特性の単一分子スケール計測法の開発
Project/Area Number |
18H02003
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
西野 智昭 東京工業大学, 理学院, 准教授 (80372415)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
椎木 弘 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70335769)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 単分子 / 温度計測 / 走査型トンネル顕微鏡 / 分子探針 / ナノ科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,ナノ科学・テクノロジーへの興味の高まりとともに,自己組織化に基づくボトムアップ技術や微細加工技術の著しい進展によって,優れた機能を有するナノスケールの微小構造体が盛んに開発されている.これに伴い,微小構造体の化学的特性,物性の計測を可能とする,高い空間分解能を有する分析法が強く求められている.しかし,従来の分析手法ではそのような局所的な計測ができないため,新たな分析法の開発が喫緊の課題となっている.本研究では,単一分子スケール,すなわちサブnmオーダーのごく微小領域において,様々な界面の化学的特性,物性を計測できる革新的手法を開発することを目的とする. 当該年度は,熱応答性分子探針を作製し,温度計測法の開発を目指した.具体的には,熱応答性高分子を設計,合成し,これをAu製STM探針に修飾することによって熱応答性分子探針を作製した.熱応答性高分子として最も広汎に用いられているポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を利用する.チオール基を導入した高分子を合成し,その化学吸着を利用してAu製STM探針に固定する.熱応答性高分子はある温度(下限臨界溶液温度,LCST)でコイル-グロビュール転移により構造変化を示す.幅広い温度領域における温度測定を可能とするために,種々の共重合体を作製し,様々なLCSTを有する熱応答性分子探針を作製した.作製した熱応答性高分子の溶液の紫外可視吸収スペクトルを,温度を変化させながら計測したところ,透過率変化が観測された.すなわち,熱応答性高分子の相転移に伴い,相分離が生じたことが確認され,温度応答性を有することが確認された.さらに,合成した熱応答性高分子をAu製STM探針に吸着させ,熱応答性分子探針を作製した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記載の通り,単一分子スケールにおける,界面の化学的特性,物性の計測法として,当該年度は,温度計測法の開発を実施した.上記,研究実績の概要に記載の通り,熱応答性分子探針の作製に必要な熱応答性高分子の合成を行った.分光測定に基づき,熱応答性有していることを確認した.さらに,熱応答性分子探針の作製を行い,予備的ながら室温における熱応答性高分子の伝導度計測にも成功している.次年度に実施する温度可変条件における伝導度計測に先立ち,温度可変STMサンプルステージの準備も行い,現状で< 1 Kの精度にて温度制御が可能であることもわかった.以上により,現在までの進捗状況は,「おおむね順調に進展している」と判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の成果に立脚し,作製した熱応答性分子探針を用いて単一分子スケールにおける温度計測法を開発する.本手法では,従来のSTMによる表面観察とは異なり,探針を走査せずに試料表面に接触させた状態にて生じるトンネル電流を計測する.熱平衡下において,探針分子は試料温度に応じた熱収縮を示す.その結果トンネル電流の経路長が温度に依存して変化するため,トンネル電流の顕著な距離依存性により,計測されるトンネル電流値が温度に依存して変化する.従って,トンネル電流をもとに温度計測が実現できる. さらにその後,pH,電場,磁場を単一分子スケールで計測できる新規手法を開発する.本研究により,いずれの計測対象に対しても従来法の空間分解能を大きく向上する.具体的には,熱応答性分子探針と同様に,計測対象となるpHなどに応答し,相転移を示す高分子をSTM探針に修飾することによって,一連の刺激応答性分子探針を作製する.過去のバルク中における文献に基づき,pH応答性分子探針にはキトサン,電場応答性分子探針にはアクリルアミド-アクリル酸共重合体,および磁場応答性分子探針には磁性微粒子を分散させたカラギナンなどを用いて作製する.電気化学における高分子修飾電極の作製法を応用し,これらの高分子をSTM金属探針へと固定し,刺激応答性分子探針を作製する.上記の温度計測法と同様に,分子探針を試料に接触させた状態にてトンネル電流を計測し,pH,電場,および磁場変化をトンネル電流を指標として計測する.
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