2019 Fiscal Year Annual Research Report
骨髄異形成症候群や先天性造血障害を誘発するエンドソーム交通異常の解明
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18H02838
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
稲葉 俊哉 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (60281292)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長町 安希子 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (20585153)
松井 啓隆 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (60379849)
金井 昭教 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (60549567)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | MDS / Samd9/9L / サイトカイン受容体 / トランスフェリン / 受容体代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
モノソミー7は、小児から高齢者まで、ほとんど全ての病型の骨髄系腫瘍で高頻度に遭遇する染色体異常であるが、その中核となるのは単一の染色体異常としてモノソミー7を有する高齢者の孤発例である。一般にその予後は不良であることが知られているが、治療法の開発には、責任遺伝子の同定とその機能解析が必須である。そこでわれわれは、長年にわたりモノソミー7の責任発がん抑制遺伝子の単離を試みてきた。この努力は、Samd9とSamd9L(以下、Samd9/9L)両遺伝子の同定という形で結実した(Nagamachi, Cancer Cell 2013)。すなわち、エンドソーム蛋白質をコードするSamd9/9Lのヘテロ欠失マウスの半数以上が老年期にMDSを発症することが示されたのである。しかも注目すべきことに、この数年、MIRAGE症候群など、Samd9/9L遺伝子の機能亢進型変異を持つ先天性造血不全が相次ぎ報告された。これらの患者から7q-を伴う幼児MDSが多発し、この際に異例なことに、変異を持った7番染色体が脱落し、正常遺伝子が残存する、revertant mosaicismと呼ばれる状況が出現した。これはMDS発症の要因が、Samd9/9Lの欠損や変異に起因する相対的な増殖力の違いであることを示唆する。Samd9/9Lが調節している初期エンドソーム交通異常、が、MDSや先天性造血障害を誘発すると思われるので、モデルマウスを作成し、そのメカニズムを検討する。増殖力の弱いMDS細胞が造血スペースを占拠する「MDSの謎」を解く糸口になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、CRSP/CAS9法を用いて作成した、MIRAGE症候群に相当するSamd9L遺伝子の点突然変異を持つ遺伝子改変マウスを解析した。作製したSamd9L変異マウスは、概ねメンデルの法則に従って誕生したが、活発ながらも生直後より体格が小さく、貧血、精巣や卵巣の萎縮、腎臓の嚢胞状変性など、MIRAGE症候群に見られる多臓器機能不全症状を忠実に反映し、全匹が半年程度で死亡した。貧血は小球性低色素性であったが、血清鉄濃度の低下はなく、血清エリスロポエチンは高値で骨髄細胞のギムザ染色やTer119/CD71によるFACS解析では、前赤芽球~好塩基性赤芽球段階での分化障害が認められた。そこで、分化障害の原因を探るため、サイトカイン受容体やトランスフェリン受容体の代謝を検討したところ、造血細胞では、受容体の取り込み速度が正常の半分以下に減少し、細胞表面トランスフェリン受容体の発現が亢進していることを見出した。一方、非造血細胞では、取り込み速度が上昇しており、表面受容体発現が減弱していた。このように正反対の現象が起きているにもかかわらず、いずれの場合も細胞増殖速度の低下が見られた。非造血細胞の表面受容体取り込み速度の亢進原因として、フォスファティジルイノシトール(PI)の脱リン酸化酵素であるShip2の核周辺から細胞表面への異常な移行と、ライソソーム機能の亢進が原因として考えられた。Samd9/9Lはインターフェロンに反応する遺伝子であることが知られてきたが、これらの作用はインターフェロンが元来持つウイルス防御反応の一端であることが明らかとなった。ここまでのデータをまとめて論文発表すべく、起草作業に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
起草作業と、論文発表に必要なデータの最終的な取りまとめ作業を第一優先で行なっている。今秋までには論文が掲載されることを目指している。 論文発表後の研究方向であるが、Samd9/9Lに関しては、まだまだ分からないことだらけである。非造血細胞では、Ship2の細胞内分布異常による細胞表面受容体の取り込み速度の亢進と、ライソソーム機能の異常な活性化が表面受容体発現低下を引き起こすというシナリオができたが、造血細胞では取り込み速度は逆に低下していた。造血細胞に特異的に発現するPI脱リン酸化酵素であるShip1が、Ship2よりも重要な役割を果たすことが遺伝子改変マウスの研究から判明しているので、ship1はの存在がこの違いの一因であると考えられるが、それではSamd9/9LはShip1とどのように関わるのか、現時点では全く見えていない。造血細胞は細胞質に乏しく、非造血細胞のような蛍光染色による形態学的な分析が困難であるという問題があるが、最新の蛍光顕微鏡技術の導入も視野に入れて、研究を進めたい。一方で、Samd9/9Lはインターフェロンに反応する遺伝子であり、Samd9/9L変異体の持つこれらの機能は、インターフェロンによるウイルス防御の一環であることが明らかになった。インターフェロンは多種多様な細胞内反応を引き起こすが、そのうちの受容体代謝調節に関してはSamd9/9Lがマスター制御因子として働いているようであり、どのような分子メカニズムでこのような多様な機能を果たすかを解明して行く。
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[Journal Article] BRD4-Regulated Molecular Targets in Mantle Cell Lymphoma: Insights into Targeted Therapeutic Approach.2020
Author(s)
102.Tsukamoto T, Nakahata S, Sato R, Kanai A, Nakano M, Chinen Y, Maegawa -Matsui S, Matsumura-Kimoto Y, Takimoto-Shimomura T, Mizuno Y, Kuwahara-Ota S, Kawaji Y, Taniwaki M, Inaba T, Tashiro K, Morishita K, Kuroda J.
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Journal Title
Cancer Genomics Proteomics.
Volume: 17
Pages: 77-89
DOI
Open Access
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[Journal Article] Kdm6a Deficiency Activates Inflammatory Pathways, Promotes M2 Macrophage Polarization, and Causes Bladder Cancer in Cooperation with p53 Dysfunction.2020
Author(s)
103.Kobatake K, Ikeda KI, Nakata Y, Yamasaki N, Ueda T, Kanai A, Sentani K, Sera Y, Hayashi T, Koizumi M, Miyakawa Y, Inaba T, Sotomaru Y, Kaminuma O, Ichinohe T, Honda ZI, Yasui W, Horie S, Black PC, Matsubara A, Honda H.
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Journal Title
Clin Cancer Res.
Volume: 26
Pages: 2065-2079
DOI
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[Journal Article] Molecular pathogenesis of progression to myeloid leukemia from TET-insufficient status.2020
Author(s)
104.Shrestha R, Sakata-Yanagimoto M, Maie K, Oshima M, Ishihara M, Suehara Y, Fukumoto K, Nakajima-Takagi Y, Matsui H, Kato T, Muto H, Sakamoto T, Kusakabe M, Nannya Y, Makishima H, Ueno H, Saiki R, Ogawa S, Chiba K, Shiraishi Y, Miyano S, Mouly E, Bernard OA, Inaba T, Koseki H, Iwama A, Chiba S.
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Journal Title
Blood Adv.
Volume: 4
Pages: 845-854
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Resistance of t(17;19)-acute lymphoblastic leukemia cell lines to multiagents in induction therapy.2019
Author(s)
Watanabe A, Inukai T, Kagami K, Abe M, Takagi M, Fukushima T, Fukushima H, Nanmoku T, Terui K, Ito T, Toki T, Ito E, Fujimura J, Goto H, Endo M, Look T, Kamps M, Minegishi M, Takita J, Inaba T, Takahashi H, Ohara A, Harama D, Shinohara T, Somazu S, Oshiro H, Akahane K, Goi K, Sugita K.
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Journal Title
Cancer Med.
Volume: 8
Pages: 5274-5288
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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