2020 Fiscal Year Annual Research Report
急激な環境変化と生物の適応と絶滅ー海洋酸性化応答生物学の創設
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18H03364
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
久保田 好美 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究員 (80710946)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木元 克典 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), 主任研究員 (40359162)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 海洋酸性化 / 有孔虫 / PETM / 微化石 / CT |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,特に炭酸カルシウムの殻を持つ微小な海洋生物(有孔虫・貝形虫)への酸性化の影響を過去の事例から明かにするため,現在の海洋酸性化との類似性(進行の急速さ,程度)が高い5600万年前の暁新世・始新世境界温暖期(PETM)に着目し,有孔虫・貝形虫が,急速な環境変動に対しどのように殻形成(石灰化)や生態系を変化させてきたのかを評価する。PETMは、5600万年前に起こった急激な気候温暖化と海洋酸性化で特徴づけられる。本研究では、PETMにおける有孔虫の石灰化への海洋酸性化の影響を明らかにするため、マイクロフォーカスX線CT(MXCT)を用いてPETM前後に連続的に産出する浮遊性有孔虫Subbotina patagonicaの炭酸塩殻の密度(殻密度と呼ぶ)を計測した。用いた試料は、南大洋のMaud Rise、ODP Hole 690Bである。 本研究における殻密度は、基準物質となるカルサイト結晶と有孔虫のX線吸収量の比(カルサイトCT値)を用いて相対値として評価した。また、サイズによる殻密度の違いを検討するため、300μm以上、212-300μmの分画に分けてピッキングを行い、160個体以上の計測を行った。暁新世末期から始新世初期にかけての解析の結果、サイズによる殻密度の違いが認められ、300μm以上の分画は、212-300μmよりも殻密度が低い傾向にあった。また、300μm以上の分画については、体積とカルサイトCT値に負の相関関係が認められ、殻のサイズが大きくなると殻密度が小さくなる傾向があった。300μm以上、212-300μmのそれぞれの分画において、PETMの開始直後に殻密度が小さくなる現象が確認され、その後のカルサイトCT値も比較的低い傾向にあった。これは、PETMにおける海洋表層の酸性化により、殻の成長が阻害された可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで統計学的な解析が可能となる十分な数の有孔虫(160個体以上)の計測を行い、概ね順調に研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
①浮遊性有孔虫,底生有孔虫,貝形虫の複数種の化石標本をMXCTで計測し,PETMを通じた各種の殻の石灰化の変化を評価する. ②IODPデータベース(JanusやPangaea)に保存されているODP Site 690の地球化学データを取得し解析することで, PETMの環境パラメータ(水温,栄養状態,海水の炭酸塩飽和度)の変動の情報を得る.環境パラメータと①で明らかにした殻密度との相関関係を調べることで,海洋酸性化と,それに随伴する環境パラメータと殻密度の因果関係を明らかにする.炭酸塩飽和度と殻密度に正の相関があれば,海洋酸性化に生物骨格が線形に応答していることを意味する. ③殻密度と群集変化の因果関係の評価.浮遊性有孔虫,底生有孔虫,貝形虫の群集解析を行い,絶滅の時期,種多様性の変動を明らかにする.これらと①で明らかにした殻密度の変動と対比し,殻密度が変化した時期と群集(生態系)の変動との因果関係を探る
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