2020 Fiscal Year Annual Research Report
文化的装置としての〈日本〉―戦後台湾における集合的記憶の社会的構成に関する研究
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18H03445
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 初梅 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (20609573)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
所澤 潤 慶應義塾大学, 社会学研究科, 訪問教授 (00235722)
石井 清輝 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (30555206)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 集合的記憶 / 台湾 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後国民党の対日政策との関わりの中で形成された文化的装置としての「日本」の実態を捉えるため、本研究は、2019年度まで2年間、台湾で戦後初期に行われた学校接収、日本人留用、官舎接収の三つの側面から広く資料を収集した。それと同時に、多くの台湾人と日本人引揚者にインタビューし、当時の体験談も聞き取った。2020年度に入り、コロナ感染拡大の関係でインタビューを中断したものの、すでに入手した資料の分析及び音声データの文字化に着手した。また台湾、日本、ドイツから計9名の研究者を招き、オンライン研究会を開催した。5回に及んだこの研究会の報告内容は多岐であるが、日本時代をめぐる台湾人の集合的記憶の生成・保持・変化という問題に取り組んでいる点で共通しており、記憶生成のメカニズムに関する知見が得られ、研究の進展がみられた。 またオーラルヒストリーを主要な資料とした実証的研究も行った。具体的に、所澤潤は、温理仁氏(旧制台北高等学校を継承した台北高級中学卒)へのインタビューを通して台北高等学校と戦後の学校制度との関係性を分析した。また辜振甫氏など台北高等学校出身者の政治的活動を分析して台北高等学校と1990年代台湾の民主化との関係性を考察した。石井清輝は、①日本植民地統治時代経験者(計23名)に対するライフヒストリー調査、②台北第三高等女学校卒業生による勉強会に参加し、計20回の参与観察調査を行った経験と知見を活かし、「植民地同窓会における戦後日本の台湾記憶―台北・樺山小学校の事例から」と題した研究報告を行った。林初梅は、台北第一高等女学校、台北第三高等女学校の卒業生への聴き取り調査で得られた知見を活かし、戦時中生まれの台湾人作家の描いた歴史小説とその改編ドラマについて論文を執筆した。論文では台湾人が持つ日本時代の集合的記憶の表象を捉え、さらにその作品創作の背後にある記憶形成の要因も分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、最終的に以下の3つに焦点を当てて分析し、解明することを目標としている。①戦後初期国民党の対日政策による日本語世代台湾人の日本イメージの変化、②世代交替による、記憶の継承と語りの変化、③今日戦後世代の台湾人が現在構築しつつある日本時代記憶の特徴。この三点について、すでに公開発表した論文もあるが、国内外の研究者からの協力もあったため、かなりの進展が見られる。とくに2019年度末にコロナ感染拡大が原因で開催できなかった研究会は、2020年度に入り、オンライン会議に切り替えたことにより、無事に開催することができた。 計5回開催されたこれらの研究会においては、9本の研究報告が行われ、活発な議論が交わされていた。目下、それらの研究報告の内容をまとめて年度内に公刊することを目標としている。そのため、研究調査活動はおおむね順調に進んでいるといえる。 しかし一方でコロナの収束が見えない今、海外渡航の制限があり、聴き取り調査の研究活動が難航しているのも事実である。というのも、すでに採集した音声データの継続調査と確認が必要なのである。できれば中断した聴き取り調査の再開と一部の音声データの公開発表を目指すが、例え調査活動の再開ができないとしても、すでに入手した文献資料と音声データを最大限に生かして一定水準の研究成果を上げたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
日本時代をめぐる台湾人の集合的記憶は、戦前の歴史と戦後の経験の交錯によって変化が生じており、様々な側面からその形成要因を探らなければならないと考え、今後の研究を以下のように計画を立てている。 研究分担者の所澤潤は、劉鼎棟オーラルヒストリーと王世慶オーラルヒストリーの文字化と公開発表を予定している。これらの口述歴史の内容は一個人のライフヒストリーのみならず、旧台北医専出身医学者の戦前と戦後、学校制度の転換、台湾省文献委員会の成立の解明に繋がるものであり、戦後台湾における日本的要素の残存現象及び「日本」記憶の再形成過程を解明する手がかりだと考えられる。 研究分担者の石井清輝は、以下のように予定している。第一に、日本統治時期台湾に存在した花蓮港中学校の同窓生を対象に、日本、台湾双方の同窓生が、戦後どのような関係性を構築し、どのような集合的記憶を生み出してきたのかを明らかにする。第二に、台北第三高等女学校同窓生の戦前、戦後にわたる経験を踏まえ、それがどのように台湾における「日本」に関する記憶のあり様に結び付いてきたのかを明らかにする。 研究代表者の林初梅は、これまでの調査結果を吟味し、台湾における「日本」記憶の生成要因を理論化することを目指す。さらに昨年度開催した研究会の報告内容の書籍化も予定している。現段階では日本、ドイツ、台湾の研究協力者、計9名から以下の研究論文を提供していただくことになっている。(1)戦時体制と台湾の百貨店、(2)台湾文学研究者・黄得時の戦後、(3)在日台湾人の戦後体験、(4)植民地同窓会における日本時代の記憶のかたち―樺山小学校出身の日本人の事例から、(5)戦後台湾における「台湾人論」のなかの日本、(6)戦後台湾人女性の装い文化にみる「日本像」、(7)台北高等学校の戦後、(8)台湾人家族史に描かれた「日本」記憶、(9)台湾人作家・鍾理和の満洲経験と戦後。
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Research Products
(11 results)