2020 Fiscal Year Annual Research Report
人工知能その他の革新的な情報技術の進展に伴う法制度の変容
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18H03613
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森田 宏樹 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (70174430)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 忠志 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (30196604)
加藤 貴仁 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (30334296)
後藤 元 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (60361458)
山本 隆司 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (70210573)
加毛 明 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (70361459)
藤田 友敬 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (80209064)
樋口 亮介 東京大学, 大学院法学政治学研究科(法学部), 教授 (90345249)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人工知能 / 自動運転 / シェアリングエコノミー / AI / IoT |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、研究実施計画に従い、自動運転班、FinTech班、シェアリングエコノミー班が各担当分野において個別的な調査研究を行った。 自動運転班は、自動車をめぐる技術革新として近年注目が集まっている自動運転車とライドシェアによる人身事故についての民事責任のあり方を検討した。その結果、将来において完全自動運転車がライドシェアサービスに用いられるようになった場合の民事責任のあり方は、完全自動運転車がどのような形で保有されているか(ライドシェアサービス事業者が保有するか個人が保有してライドシェアサービス事業者に拠出するか等)に依存すること等が明らかにされた。 FinTech班は、ビットコインの基盤技術であったブロックチェーンを様々な情報を記録する手段として応用する試みが活発化している状況を受けて、「仮想通貨」に対象を限らない資産のデジタル化に対する法制度の整備のあり方を検討した。具体的には、2019年の資金決済に関する法律と金融商品取引法の改正によって整備されたブロックチェーン上で移転可能なトークンを発行して行う資金調達を対象とする規制等を題材にして、ブロックチェーン上の記録と実体法上の権利の結び付きに関連する問題等を分析した。 シェアリングエコノミー班は、デジタルプラットフォームに関係して注目が集まっている日本の公正取引委員会による独禁法(競争法)の法執行の状況を考察した。まずカルテル規制を題材として、現代の日本における企業には世間一般の評判を維持するために規制に協力する気風が強いことを明らかにした。その上で、本題である優越的地位濫用規制について、課徴金制度が機能せず長年にわたって命令事例がないにもかかわらず、公正取引委員会が、企業の協力姿勢に期待して実態調査報告書やガイドラインで問題点を指摘することによって取引慣行の改善を促す手法を採用している状況を検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大及びその対策としての緊急事態宣言の発令等により、研究活動に様々な制約が生じた。しかし、自動運転班、FinTech班、シェアリングエコノミー班は、各担当分野において、研究業績を論文又は学会報告の形で公表できた。また、オンラインの形で開催される学会や研究会を積極的に活用して研究報告を行い、その成果を論文として公表できたものも存在する。 2020年度は、各担当分野における個別的な調査研究を中心とし、研究組織の組み替え(「人工知能における権利義務ないし責任の帰属主体性」と「P2P型取引によって進む経済社会の自律分散・協働化に対処可能な規整手法」を対象とする2つの研究班の設置)を見送った。しかし、各班の研究業績の中には、他の班の担当分野に関連する問題を取り扱うものが複数存在する。 たとえば、自動運転班による自動運転車とライドシェアによる人身事故についての民事責任のあり方に関する研究業績並びにFinTech班によるブロックチェーンを利用した資産のデジタル化に対する法制度の整備のあり方に関する研究は、シェアリングエコノミー班の担当分野に含まれるプラットフォームビジネスの規制のあり方と密接に関係している。また、新型コロナウイルス感染症の拡大は、規制手法の中に情報通信技術を積極的に取り組む必要性を再確認させる機会となり、行政手続きのデジタル化等を研究する必要性が高まった。FinTech班は金融規制の分野におけるRegTech(事業者による法令遵守・規制遵守を効率化するために技術・テクノロジーを利用すること)を研究対象としているが、金融規制の分野に射程を絞らない行政手続きのデジタル化の研究が他班において行われている。 したがって、研究組織の組み替えを行うことなく各担当分野における個別的な調査研究を中心としつつも、領域横断的な理論の構築に向けた研究も進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も、2020年度に引き続き、各班による個別的な調査研究を中心に研究活動を実施する。新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、各研究分担者による個別的な研究活動を中心に行う。 自動運転班は、2020年4月1日に施行された道路運送車両法の改正後に生じた自動運転に関する実務の発展と追加的な制度整備が必要な問題の所在を検証する。FinTech班は、2021年に施行される予定の資金決済に関する法律並びに金融商品の販売等に関する法律(金融サービスの提供に関する法律)の改正を踏まえて、銀行、証券会社、保険等の金融機関とFinTech事業者との関係の変容を分析する。シェアリングエコノミー班は、2021年2月1日に施行された「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」を、プラットフォームビジネスに関連する規制の集合体の中に位置付け、その意義を検討する。 領域横断的な理論の構築に向けた研究組織の組み替えについては、自動運転班、FinTech班、シェアリングエコノミー班のいずれの研究領域においても重要な立法が相次いだため、個別的な研究を優先することが研究計画の遂行上、有益であると考え、見送ることにする。総括補佐が、各研究班の進行管理と調整を行い、その進行に応じて全員が参加する全体会を開催して、問題意識と情報の共有に努める。全体会において、「人工知能における権利義務ないし責任の帰属主体性」と「P2P型取引によって進む経済社会の自律分散・協働化に対処可能な規整手法」に関連する論点の洗い出しを行い、その内容を各研究班の調査研究に反映させる。
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