2019 Fiscal Year Annual Research Report
Risk and water-related resilience in deltas: dimensional modeling of the natural environment, infrastructure and socio-economic structure
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18H03823
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川崎 昭如 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任教授 (00401696)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森田 敦郎 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (20436596)
遠藤 環 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (30452288)
ヘンリー マイケル・ワード 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (80586371)
池内 幸司 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90794834)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水災害 / アジア / デルタ都市 / レジリエンス / 学際 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年の研究実績に関して、研究対象地ごとに記載する。 タイにおいては洪水レジリエンスについての研究を継続し、2011年の大洪水の影響を受けたコミュニティやその後に洪水対策が強化された地域、河川沿いの視察、洪水対策としてスラム移転政策を進める実施機関(管轄機関など)および2011年の大洪水時に政策設計に携わった行政官や、その後の洪水対策の設計・指揮に当たる行政官へのインタビュー調査を実施した。また水文モデルなどの自然環境に関するシミュレーション・モデルと社会および政策とのインターフェイスについての調査研究を行った。そこでは、モデルに基づく政策提言が、社会に採用されにくい問題があることを明らかにするとともに、その背後にはモデルの開発過程へのステークホルダーの参加の阻害という問題があることを見出した。さらに、このようなステークホルダーの参加をめぐる問題は、人工物のデザインをめぐって一般的にみられる現象であること、その解決にあたって利用可能な研究蓄積が他分野に存在していることを確認した。 ミャンマーにおいては、ヤンゴン都市圏における世帯訪問調査で得られたデータベースを用いて、世帯レベルでの社会的脆弱性を定量化できる指標を抽出した。その指標を元に総合指標を構築し、世帯の社会的脆弱性の空間的分布を分析し、災害の曝露の度合や将来のリスクとの関係を明らかにした。また、総合指標の構築に対して方法論的な観点から検討した。 日本国内においては、気候モデルの大規模アンサンブル実験結果と河川氾濫モデルを使用して,複数の海面水温変化シナリオを考慮しながら日本全域で将来の洪水リスクの変化を推定した。その結果、日本の多くの地域で極端な流量が頻発化し、人口減少を考えても曝露人口はほぼ維持されるという結果が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね計画通りに順調に進んでいる。 2011年以降のタイの政策的変遷と実施状況に関しては、キーパーソンへのインタビューを実施し、全体像が明確になった。一方で、洪水予防策に伴う移転が生じている低所得者の居住地域でのインタビューの実施は準備を進めている。また、ミャンマー、タイの両国を対象とした横断的な調査票の質問設計、比較基準となるインディケーターの検討についても、引き続き国内外の研究者との議論を強化する必要がある。 また、現在行われているモデルに基づく政策提言研究が抱える問題が、1980年代のコンピュータ科学において生じていたソフトウェア・デザインとユーザーの環境の間の齟齬という古典的な問題と類似しているという新たな発見があった。このことは、1980年代以降のコンピュータ科学とデザインの知見を本プロジェクトに生かすことができることを示唆している。また、デザインをめぐる研究では人類学を中心とした社会科学が大きな貢献を行なってきたことも明らかになった。この発見を受けて、ソフトウェアデザインにおける人類学的研究の蓄積を活用する新たな研究戦略を立案した。 さらに、総合指標の構築と分析のアプローチに関しても大きな進歩があった。一方、社会的脆弱性の評価において多様な分野の観点を反映することに対しては課題が残っているが、学際的な研究の実施において克服する必要のある一般的問題であり、来年度の取り組みをより強化する予定である。 アイルランドや米国で開催された国際会議にて、都市のリスクとその対応に関して報告するとともに、レジリエンスや洪水関係のプロジェクトを運営するドイツ、香港、タイ、米国などの研究者と意見交換を行うなど、本研究に関する国際的ネットワークを当初の予定通り着実に強化できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はレジリエンス概念の都市インフラへの応用の問題点を検討する。本来エコシステムの安定性を指す概念として登場してきたレジリエンス概念を人工物や社会システムに応用することは様々な問題を孕んでいる。今後はレジリエンスが生態学の領域から社会基盤学の領域へと移転ないし翻訳されたことがもたらした意味の変容を、critical infrastructureをめぐる議論をレビューしながら具体的に検討する。 海外での事例調査に関してはCOVID-19が収束し、タイやミャンマーなどへの入国が可能となれば、2011年以降の洪水対策の中で移転対象となっている地区への住民や関連機関へのインタビュー調査を実施する。 社会的脆弱性を表す総合指標の構築に関しては、不確実性を考慮した新たな解析方法を採用することで、ヤンゴンにおける社会的脆弱性の評価へ適用する。さらに、他地域のデータセットを用いて、社会的脆弱性の評価に向けた指標の検討や総合化を行う適切な方法を検討するとともに、多分野での観点を考慮した社会的脆弱性と災害リスクとの関係を学際的に分析する。その際、多分野の研究者との議論や文献調査などを通した情報収集を目的に、米国ハーバード大学で在外研究を行う。その間、MITやイェール大学などの研究者とも議論を深めながら、国際的研究ネットワークの拡充を図る。 また、水災害リスクの評価手法の開発に関して、近年の水害時における人的被害の発生状況と水深、流速、水位上昇量などの物理量の再現計算結果を基に、既往の人的被害の想定手法の改善方策を検討する。そして、十分な避難時間を確保できない際に垂直避難を行った場合と広域避難を行う場合の人的被害の発生リスクを求め、避難するリスクと留まるリスクの比較考量を行う。
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Research Products
(22 results)