2021 Fiscal Year Annual Research Report
Preservation of mammalian genetic resources and study for the developmental mechanism using freeze-dried cells
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18H03953
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Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
松川 和嗣 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (00532160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋口 琢磨 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 助教 (10754567)
市川 明彦 名城大学, 理工学部, 准教授 (20377823)
枝重 圭祐 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 教授 (30175228)
武田 久美子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (60414695)
黄川田 隆洋 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主席研究員 (60414900)
赤木 悟史 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (70414696)
及川 俊徳 宮城県畜産試験場, 畜産試験場, 上席主任研究員 (70588962)
坂本 修士 高知大学, 教育研究部医療学系基礎医学部門, 教授 (80397546)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 凍結乾燥 / 遺伝資源保存 / 精子 / 体細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、凍結乾燥 (以下、FD) 精子による顕微授精 (ICSI) 胚の発生率の検討およびFD精子の損傷率を調査し、FD精子による胚の生産技術を向上させる要因を検討した。さらに、核移植胚の発生率の向上を目的として、トリコスタチンA(TSA)で処理したウシ体細胞核移植 (SCNT) 胚の第一卵割のタイミングとin vitroでの発生との関係を検討した。 【精子】新鮮精子およびFD精子による発生率の比較した結果、ICSIでは精子の運動性に関わらず受精させることが可能であり、ICSIによって日数の経過した新鮮精子由来胚も冷蔵保存1日目の精子と同程度の卵割率/胚盤胞期胚率が得られること、また、FD精子由来胚も新鮮精子由来胚と同程度の胚発生率であることから、ICSIが運動性の低い精子に特に有効な手法であること、精子において1週間程度の日数の経過は受精および胚発生には問題がないこと、FDが胚発生に与える影響は小さいものであると考えられた。 【体細胞核移植 (SCNT)】TSA 処理にかかわらず,22 時間で卵割した胚の約半数が観察され,22 時間で卵割した SCNT 胚は,26 時間以上で卵割した胚よりも有意に高い胚盤胞形成率を示した.22 時間で卵割した TSA 処理胚の胚盤胞形成率(80%)は,対照胚のそれ(70%)よりわずかに高かった.また、インターフェロン-τ(IFN-τ)の発現は、体外受精(IVF)胚に比べて、対照SCNT胚および後期卵割胚(26時間以上)、およびTSA処理胚で有意に低かった。しかし、22時間および26時間で卵割したTSA処理SCNT胚とIVF胚との間には、有意な差は認められなかった。これらの結果から、TSA処理はSCNT胚の第一卵割のタイミングには影響しないが、早期卵割胚の胚盤胞形成率およびIFN-τの発現レベルをわずかに向上させることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、一般的に精子は液体窒素によって凍結保存され、使用時に融解することで人工授精や体外受精に用いられている。しかし、液体窒素による保存は高額な維持費や人体への危険性、災害時の遺伝資源の損失などの点で懸念されている。そこで、我々は液体窒素に代わる保存法として凍結乾燥 (FD) に着目し、これまで、(1)ウシおよびマウス繊維芽細胞を供試して、FD条件 (凍結方法、乾燥条件、緩衝液の種類、等)を検討し、最適な条件を確立した。(2) FD後の細胞生物学的特性 (DNA損傷、電子顕微鏡像、細胞小器官評価) 、物性 (ガラス転移温度、含水率) を評価した。(3) FD精子では胚盤胞期胚の作出および子牛の生産、FD体細胞では胚盤胞期胚の作出に成功している。しかしながら、現状ではFD精子を用いた胚盤胞期胚の作出率および産子率はいまだに低く、実用化に至っていない。また、FD体細胞による核移植胚の胚移植後に受胎に至っていない。そのため本年度は、FD精子および体細胞による胚作出について検討し、最終年度となる2022年度の研究実施の基盤を構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
生物資源を地球規模で人類が共有している資産「グローバル・コモンズ」ととらえると、地球環境における生物多様性の危機は最も懸念すべき問題である (Rockstrom et al., 2009)。2018年3月、キタシロサイ最後の雄である“スーダン”が死亡し、キタシロサイは品種として事実上絶滅を迎えたといわれているが (WWFジャパンHPより)、密猟や戦争など人間活動による直接的な要因以外に、個体減少による遺伝的多様性の喪失もその絶滅の要因となった。そのために世界規模の保存施設、例えばサンディエゴ動物園のFrozen Zooなどでは動物の生殖細胞や体細胞が凍結保存されている。しかし現在の技術では、精子や体細胞の恒常的な保存には液体窒素が必要不可欠である。そのため、液体窒素を定期的に供給しなければならず、液体窒素の生産に関わる環境負荷 (カーボンフットプリントの増大)、コストやスペースが恒常的に必要である、移動や分散保存が困難である、取り扱いには人体への安全面で問題がある、など様々な欠点がある。さらに近年では、大型地震やハリケーン等の大規模自然災害、地球温暖化を起因する異常気象による損失が著しい。 そこで本研究では、哺乳動物の遺伝資源としての利用促進、生物多様性の保全を目的として2022年度は、(1) 凍結乾燥精子由来の胚による受胎の再現性を検討する、(2) 凍結乾燥体細胞由来の胚による受胎を試みる、(3) 凍結乾燥精子および体細胞による初期発生機構の解明を行う。 これらの研究を通じて、グローバル・コモンズとなる哺乳動物の遺伝資源保存の研究推進に貢献する。
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Research Products
(1 results)