2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18H03984
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田口 英樹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40272710)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | セントラルドグマ / 非典型的翻訳 / 無細胞翻訳系 / リボソーム / 翻訳バイパス / RAN翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内のタンパク質は全てリボソームで翻訳され、合成された新生ポリペプチド鎖(新生鎖)がフォールディングして機能を発現するのが基本である。近年、我々の研究成果を含めて非典型的な翻訳が続々と明らかになってきており、セントラルドグマの終端である翻訳の周辺には大きな未開の分野が拡がっていることが認識されてきた。翻訳は遺伝子読み枠(ORF)の開始コドンから終止コドンまでを淡々と一様に進むわけではない。例えば、我々は、大腸菌で新生鎖の負電荷アミノ酸の連続配列を翻訳する際にリボソームが不安定化され(Intrinsic ribosome destabilization: IRD)、結果として翻訳が途中終了する現象を世界に先んじて見出し、このIRDが生理的な役割を担いうることも見つけた(Chadani et al, Mol Cell 2017)。そこで本研究では、新たに見出されたIRDを中心とした翻訳ダイナミクス制御について包括的に理解することを目的としている。 2019年度は、大腸菌でのIRDの分子機構、IRDを介したタンパク質レパートリーの拡張(翻訳バイパス)に力点を置いた研究を展開し、多くの新規知見を得た。また、大腸菌で見つけたIRDが真核生物(出芽酵母とヒト培養細胞)でも起こることを確実にするとともにその性質を詳細に解析した。また、ヒトの神経変性疾患における非典型的翻訳、リピート関連非ATG翻訳(Repeat-associated non-ATG translation: RAN翻訳)の研究を開始した。2020年度は、研究成果をまとめて論文化するとともに、コロナ禍で保留となったRAN翻訳に関する海外との共同研究に代わる新たな展開も実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、私たちが世界に先んじて発見した非典型的な翻訳現象(IRD)に関して、および、ヒトの神経変性疾患における非典型的翻訳、リピート関連非ATG翻訳(Repeat-associated non-ATG translation: RAN翻訳)について以下のような進展があった。 【大腸菌IRD】1)IRDの分子機構:負電荷の連続配列がいつもIRDを起こすわけではなく、リボソームの出口トンネルが新生鎖で埋まっている場合にはIRDは抑制されること、その抑制にはトンネル内の新生鎖の長さとアミノ酸のかさ高さが関わっていることを見出した(論文改訂中、Chadani et al, BioRxiv 2021)。2)IRDを介した翻訳バイパス現象:ファージには不連続なORFは翻訳を途中終了させるだけでなく、一つのmRNA内の二つの不連続な2つの遺伝子読み枠(ORF)から1本のポリペプチドが翻訳される翻訳バイパスが知られており研究が進められているが、バイパスを起こす機構の一つにIRDがあることを見出した。 【真核生物IRD】出芽酵母においてN末端に存在する負電荷の連続配列によってIRDが起こることを見出した。また、ヒト由来の再構成型無細胞翻訳系(ヒトPUREシステム)においてもIRDが起こることから、IRDは原核生物から真核生物に保存された非典型的な翻訳動態であることが明らかとなった。 【RAN翻訳】開始コドンがない塩基リピートをもつmRNAから複数のフレームが翻訳され、病気に関連するペプチド(タンパク質)が合成されるRAN翻訳の生細胞内でのイメージングをStasevich博士(コロラド州立大学)と共同で行う。イメージング用の発現ベクターは完成したが、コロナ禍の中で米国への出張が不可となり、保留としている。 以上をもって、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、私たちが見出した非典型的な翻訳動態である新生鎖依存の翻訳途上終了(IRD)に関して大きな進展があり、いくつかは既に論文投稿し改定段階まで来ている。2020年度はまだ論文化されていない研究をまとめて論文発表にこぎつける。また、生細胞内で非典型的な翻訳動態(RAN翻訳)を観察するという新しいアプローチはコロナ禍の中で米国での共同研究が保留となっているので、国内で実施できるアプローチも開始する。具体的には以下のような研究を実施する。 1.大腸菌IRDにおける翻訳バイパスの分子機構解析・再構成:翻訳バイパスにIRDが関わることがわかった。これまでわかってきた知見を元に翻訳バイパス配列をデザインする。翻訳バイパスの再構成ができることでより詳細な分子機構の解明につながると期待できる。 2.真核IRDの分子機構と普遍性:昨年度に真核生物でもIRDが起こることがわかった。20年度は出芽酵母内でどのくらいのIRDが起こっているのか質量分析装置も使って大規模に解析する。 3.ヒトPUREシステムによるRAN翻訳の再構成:開始コドンがない塩基リピートmRNAから複数のフレームが翻訳され、病気に関連するペプチド(タンパク質)が合成されるRAN翻訳がどのような分子機構で起こるのかについて世界中で研究が進められているがまだ多くが謎である。その理由の一つとして分子レベルでの解析が遅れていることである。試験管内でのRAN翻訳も行われているが、ウサギ網状赤血球など細胞抽出液系が使われており、どのような翻訳因子が関わるのかなどを正確に調べることは困難である。そこで今高寛晃博士(兵庫県立大学)らが開発したヒト因子由来のPUREシステムで解析を開始する。
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Research Products
(6 results)