2020 Fiscal Year Annual Research Report
Mechanism of heterogeneity-induced colon cancer malignant progression
Project/Area Number |
18H04030
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大島 正伸 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (40324610)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 大腸がん / オルガノイド / 転移 / 遺伝的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ゲノム研究により明らかにされた、ヒト大腸がん発生や悪性化に関与するドライバー遺伝子の中で、変異頻度の高いApc(A)、Kras(K)、Tgfbr2(T)、Trp53(P)、Fbxw7(F)の5種類の遺伝子変異を異なる組み合わせで導入したマウスモデルおよびオルガノイド移植モデルを作製し、本研究課題ではそれぞれの変異の組み合わせによる悪性化機構を明らかにして来た。すなわち、AKT、AKPなどの3重変異により腸管原発巣でのEMT様変化や脈管浸潤などの悪性形態変化が認められ、AKTP、AKTPFなどの4重、5重変異でオルガノイドを脾臓移植した時の高い転移能獲得を明らかにした。さらに、本課題では、樹立したオルガノイドシステムを用いて、遺伝的多様性による悪性化誘導機構を解明する事を目的とした研究を推進した。 令和2年度は、オルガノイド移植による転移実験を継続して実施し、以下の結果を得た。高転移性のAKTPオルガノイド細胞が肝転移巣を形成する際には、肝星細胞(HSC)を活性化して増殖を誘導し、がん細胞周囲に線維性微小環境を形成することを明らかにした。重要なことに、AKTP細胞による線維性ニッチ形成に依存的に非転移性のAP細胞も肝臓に生着し、AKTP細胞と混在したポリクローナル転移巣を形成した。すなわち、悪性度の異なるがん細胞がクラスターを形成したまま遠隔臓器に到達した際に、悪性化がん細胞が誘導して形成した転移ニッチが、ポリクローナル転移に重要な役割を果たしていると考えられた。これらのオルガノイドによる転移能の違いを細胞表面の物性の違いから解明するため、新たに走査型イオン流顕微鏡(SICM)を使ったオルガノイドの細胞表面構造を解析した。その結果、転移性細胞では特徴的な細胞構造を持つ予備的な結果を得た。今後、各遺伝子型のオルガノイド細胞に対するSICM解析を継続する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
転移性、非転移性のオルガノイドの移植によるポリクローナル転移機構のメカニズムに、肝星細胞の活性化による線維性ニッチの形成が重要であることを示すため、以下の個体レベルおよび物性における重要な知見を得たことから、当初の計画以上の進展と判断した。
(1)個体レベルで検証するため、AKTP細胞の移植により線維性微小環境をともなう転移巣を肝臓に形成させ、その後にジフテリア毒素の系を使ってAKTP細胞だけを枯渇させるモデルの作製に成功した。このモデルを使って、AKTP細胞が誘導した線維性ニッチが残ったマウスにAP細胞を移植すると、AKTP細胞不在でもAP細胞が生着してコロニーを形成することを明らかにし、線維性ニッチによる転移巣形成の重要性を個体レベルで初めて証明することに成功した。この結果は、ポリクローナル転移機構の解明に大きく貢献し、当初の計画以上の研究成果を得ることが出来た。
(2)金沢大学ナノ生命科学研究所で開発された、高速SICMを使ったナノレベルの計測により、転移性オルガノイドは特徴的な細胞表面構造を示す予備的結果を得た。高速SICM解析は当初の計画にないが、遺伝子変異にともなう物性の変化を明らかにすることで、多様性を持った集団を形成した時の変化を追跡することが期待された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度はこれまでの研究成果を基盤とし、樹立した腸管腫瘍由来オルガノイドを使って以下の研究を推進する。 (1)転移性細胞による非転移細胞の転移誘導機構の解析:R2年度から継続し、異なる遺伝子型のがん細胞による集団的転移機構の解析を行う。これまでに、AKTP細胞による線維性ニッチ形成が転移巣形成に重要な役割を果たすことを示した。今年度は、AKTP細胞による線維性微小環境形成機構を明らかにするため、正常マウス肝臓から不死化した肝星細胞(HSC)を樹立し、AKTP細胞との共培養による活性化機構の検証を行う。 (2)転移能獲得細胞の細胞表面物性の計測:金沢大学ナノ生命科学研究所で開発された、高速HS-SICMを用いた予備的結果から、HS-SICMによりオルガノイド表面の構造解析に成功している。そこで、異なる遺伝子型オルガノイドの細胞表面の物性をHS-SICMにより計測し、転移能獲得と構造および硬度等の物性の相関について明らかにする。さらに、悪性度の異なる腫瘍細胞を共培養した時の物性の変化を観察し、多様性による悪性化形質の変化を明らかにする。 (3)各遺伝子変異の組み合わせによる悪性化誘導シグナル経路の特定:これまでに、転移能の高いAKT変異を持つオルガノイドに特異的に高発現する遺伝子群を明らかにしており、候補遺伝子から転移促進因子の探索を行う。これまでにshRNAスクリーニングによりTm4sf1、Slc17a9などの候補因子を特定しており、これらの遺伝子産物が転移にどのように関与するのか、遺伝子欠損および強制発現オルガノイドを作製し、in vitroおよび移植実験等により転移形成における役割を検証する。
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Research Products
(8 results)