2021 Fiscal Year Annual Research Report
Clarification of Ubiquitous Proton Function in Photoreceptive Proteins by Quantum Molecular Dynamics Simulations
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18H05264
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中井 浩巳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00243056)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高野 光則 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40313168)
吉川 武司 東邦大学, 薬学部, 准教授 (10754799)
小野 純一 京都大学, 実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点ユニット, 特定研究員 (30777991)
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Project Period (FY) |
2018-06-11 – 2023-03-31
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Keywords | 光受容タンパク質 / 量子的分子動力学(QMD)法 / 遍在プロトン / バクテリオロドプシン(BR) / FoF1-ATP合成酵素 / 光活性イエロータンパク質(PYP) / GPUアクセラレータ / 励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、理論・プログラム開発(T1-T2)、基底状態(G1-G3)および励起状態(E1-E2)に関する研究テーマからなる。2021年度には、(G2) イオン輸送機能を持つ微生物型ロドプシンにおけるプロトン移動ダイナミクス、(G3) FoF1-ATP合成酵素における機能発現ダイナミクス、(E1) 光活性イエロータンパク質(PYP)における光異性化ダイナミクス等を実施した。 (G2)では、光異性化した13-cis型のレチナールプロトン化シッフ塩基(RPSB)を用いたチャネルロドプシン(ChR2)の古典分子動力学(CMD)計算を行い、光異性化によって誘起される分子内応答を解析した。また、膜内外に電位差を加えたCMD計算を行い、ナトリウムイオンの侵入を解析した。(G3)では、Foのc-ring回転の自由エネルギー地形を解析するためのアンブレラサンプリングを継続し、PMFの収束性を高めた。さらに、Fo内部のプロトン伝導とc-ringのGlu56でのプロトン脱着機構を解明するための量子分子動力学(QMD)計算に着手した。 (E1)では、昨年度開発したスピン反転(SF)法に基づく分割統治型時間発展密度汎関数強束縛法に対してスピン対称性を導入した。その結果、スピン状態の混成によって発生する一重項と三重項状態の混成を防ぎ効率よく計算することに成功した。また、PYPの活性中心であるp-クマル酸の熱反応における異性化の解析を行った。 当初計画にはなかったが、新型コロナウイルス感染症の原因ウイルスSARS-CoV-2の主要プロテアーゼ(Mpro)におけるプロトン移動ダイナミクスに着手した。基質フリーでの活性部位のプロトン化状態に対する自由エネルギー解析の結果、触媒活性に有利なイオンペア状態が最も安定であることを解明した。また、非局在化した励起状態を扱えるEhrenfest動力学法の開発を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(G2)では、ChR2のCMD計算を行い、RPSBの光異性化により、RPSBのシッフ塩基プロトンからGlu90につながるクーロン結合(水素結合)ネットワークの組み替えが誘起されることを見出した。また、膜内外に電位差を加えたCMD計算を行い、細胞外から水チャネルを通ってGlu90に侵入するナトリウムイオンを捉えた。(G3)では、アンブレラサンプリングを強化し、PMFの収束性を改善した。また、Fo内部のプロトン伝導機構を解明するため、c-ringのGlu56におけるプロトン解離・結合をQMD計算によって解析した。その結果、Foの主鎖・側鎖の酸素原子に対するプロトン結合親和性が非常に高いことを明らかにした。 (E1)では、光異性化過程のスナップショットの構造で励起状態計算を行った。その結果、励起状態におけるtrans型からcis型への異性化反応のエネルギー障壁は基底状態より低いことがわかった。従来のSF法では無輻射失活過程の円錐構造を精度よく再現することが可能な反面、一重項と三重項状態の混生が生じ、QMD計算中において状態追跡が困難となる。この問題を解決するため、スピン対称性を満足するSF法を開発した。 当初計画にはなかったが、新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向け、本研究課題で確立した基盤技術を活用したインシリコ創薬研究に着手した.具体的には、ウイルス増殖に関わり、抗ウイルス薬の主要な標的であるMproを対象とした共有結合阻害剤の探索・評価・開発を開始した。はじめに、基質非存在下での活性部位のプロトン化状態をQMD計算によって解析した結果、触媒機能に有利なイオンペア状態が最も安定であることを明らかにした。本結果は中性子結晶構造解析の結果と一致した。 当初計画にはなかったが、非局在化した励起状態を記述可能な非断熱MD法の開発を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの進捗より、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できた。最終年度も当初の研究計画以上の進展を目指す。 (T1-T2)では、当初の研究にはないが、DCDFTBMDプログラムの更なる高速化や機能拡充を行う。 (G2)では、ChR2のチャネル開閉のトリガーとなるRPSBの光異性化と光異性化後のRPSBからのプロトン解離機構に注目する。RPSBの光異性化は13-cis, 15-anti型だけでなく13-cis, 15-syn型にもなる。そこでC13=C14結合周りの2面角を反応座標にとったPMFをCMD計算とQMD計算で求めて光異性化後のRPSBの2つの状態の安定性を解析し、さらに光異性化後のシッフ塩基プロトンの解離をQMD計算で解析する。KR2についてもRPSBの光異性化に着目して同様の解析を行う。(G3)では、c-ring回転の自由エネルギー地形の収束性の改善のため、膜分子の影響を調査する。QMD計算ではまずc-ringのGlu56からのプロトン解離を再現する。CMD計算で得られた自由エネルギー地形からプロトンが解離・結合する角度を検討し、QMD計算によりプロトン脱着機構とc-ring回転機構を解明する。 (E2)では、開発したスピン対称性を満足するSF法に基づく励起状態QMD計算により、PYPのドロップレットモデルの光異性化反応を解析する。また、溶液中のp-クマル酸や基底状態との比較も行う予定である。(E2)についても同様に解析を行う。 当初の計画にはないが、SARS-CoV-2のMproに対するインシリコ創薬研究を発展させる。基質の有無やプロトン化状態が異なるMproに対してQMD計算を実行し、得られた複数の平衡構造に基づいてドッキングを行うことで結合親和性の観点から薬剤候補分子を選定する。Mproと各薬剤候補分子に対してQMD計算を実行し、共有結合反応性を評価する。
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