2018 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内環境応答性人工核酸による血管内皮細胞マイクロRNA制御と脳梗塞治療薬の開発
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18J11742
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
稲垣 雅仁 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2020-03-31
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Keywords | 刺激応答性人工核酸 / 虚血性疾患選択的核酸医薬 / ペプチドリボ核酸(PRNA) / ホウ酸エステル結合 / 核酸塩基部配向変化 / 触媒的核酸医薬 / キメラ人工核酸 / RNase H活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、マイクロRNA機能制御による効果的な脳梗塞治療薬開発を目指し、人工核酸誘導体を核酸医薬へと応用する上で重要な課題として指摘されているオフターゲット効果の克服のため、細胞内環境応答性人工核酸による虚血性疾患選択的核酸医薬系ならびにRNase H活性を利用した触媒的核酸医薬系の構築に取り組み、両方法論の有効性の実証に成功した。虚血性疾患選択的核酸医薬系の構築においては、当研究室で報告してきたペプチドリボ核酸(PRNA)の適用を提案し、脳梗塞のペナンブラと呼ばれる虚血領域において選択的に薬効発現可能な第二世代PRNAの開発に成功した。第二世代PRNAでは、リボース骨格とグルタミン酸誘導体から構成されるPRNAに対してリシンリンカーを介してフェニルボロン酸誘導体を導入することにより、虚血細胞と正常細胞間における細胞内pH変化のみによってPRNAの核酸塩基部配向を自在に制御できることを見出した。さらに、第二世代PRNAの薬効発現に重要な核酸塩基部配向変化pH(pKs)はハメット則に従い、フェニルボロン酸フェニル基上への置換基導入によりチューニング可能であり様々な疾患へと適用できる画期的な方法論である。触媒的核酸医薬系の構築においては、より高効率な標的RNA切断を達成する為に、DNA-ペプチド核酸(PNA)/PRNAキメラ分子を設計・合成し、RNase Hによる標的RNA切断後の解離過程促進を目的とした新規方法論の構築に成功した。本キメラ分子を用いることにより、切断後RNA断片の複合体安定性が生体内環境37度以下になるような位置で選択的に標的RNAを切断できれば、切断後速やかに解離し、核酸医薬のターンオーバー数が飛躍的に向上することを見出した。また、キメラ分子を適切に設計することにより、標的RNAの部位特異的一箇所切断が可能となりゲノム編集ツールなど幅広い応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
脳梗塞などの虚血性疾患選択的なマイクロRNA阻害を達成する為に、細胞内環境応答性ペプチドリボ核酸(PRNA)による虚血性疾患選択的核酸医薬系ならびにRNase H活性を利用した触媒的核酸医薬系の構築に取り組んだ。虚血性疾患選択的核酸医薬系構築においては、当初計画していた通り、PRNAに対するフェニルボロン酸誘導体導入に成功し、pH変化に基づくanti-syn核酸塩基部配向制御を円二色性スペクトル解析により実証した。さらに、様々な置換基導入によりanti-synスイッチングpH(pKs)がハメット則に従い自在にチューニングできることを見出し、本結果は期待以上の成果である。さらに、PRNAとフェニルボロン酸誘導体との分子間ホウ酸エステル結合形成においては、pKsの濃度依存性があるのに対して、PRNA-フェニルボロン酸複合体からなる第二世代PRNAにおける分子内ホウ酸エステル結合形成においては、pKsは基質濃度に依存せず一定値を示すことをハメットプロットに基づき示すことができ、分子内フェニルボロン酸誘導体導入の有効性を示すとともに、細胞内においても第二世代PRNAが投与量に依存せず効果的に機能できる可能性が示唆された。触媒的核酸医薬系の構築においては、X線結晶構造およびモデル構造に基づき、DNA-アミド骨格人工核酸キメラ分子を設計・合成した。当初の計画通り、DNA-人工核酸アミドジャンクション部位での選択的RNA切断と高効率触媒的RNA切断の実証に成功した。さらに、様々なDNA-人工核酸キメラ分子誘導体を合成し、詳細な機能解析の結果、DNAへの人工核酸導入位置・構造の違いによって標的RNAの切断部位を自在に制御可能であることを見出した。本結果は、DNA-人工核酸キメラ分子が配列特異的RNA切断ツールや新規ゲノム編集法などへ応用可能であることを示す予想を遥かに上回る成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ハメット則に基づく構造設計により脳梗塞選択的薬効発現が期待できるPRNAの開発に成功した。今後は培養細胞を用いた脳梗塞モデル系において、PRNAによるマイクロRNA阻害効果の検討を行う。具体的には、miR155に相補的なPRNAを設計・合成し、低酸素培養による細胞内pH低下に応じた阻害効果の変化について検討することで、PRNAによる薬効発現スイッチングを実証する。また、miR155の標的部位の最適化も重要な課題であり、ストランドインベージョン機構を利用した標的多様性の拡大にも取り組む。DNA-人工核酸キメラ分子の系においては、現在、培養細胞を用いた細胞内在性RNase Hによる標的mRNA切断に基づく翻訳阻害効果について検討しており、今後の展開が期待される。本系においては、in vivo実験への適用を見据え、より実用的な核酸医薬としての展開のため、3'-DNA末端に対して糖部架橋型核酸(LNA)の導入およびホスホジエステル結合をホスホロチオエート結合へと改変したキメラ分子を設計・合成することにより標的核酸親和性とヌクレアーゼ耐性の向上を目指す。このようにして、最適化したPRNAフラグメントとDNA-人工核酸キメラ分子フラグメントをHuisgen双極子環化付加反応(CuAAC)により連結し、キメラPRNAコンジュゲートを合成する。キメラPRNAコンジュゲートの標的核酸との相互作用特性、ストランドインベージョン特性、標的RNA切断特性、タンパク質発現抑制活性についてin vitro系において評価したのち、培養細胞ならびにモデルマウスを用いて本方法論の実証に取り組む。
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Research Products
(10 results)