2018 Fiscal Year Research-status Report
和解の政治哲学――後期ロールズにおけるヘーゲル主義の解明
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18K00002
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
佐山 圭司 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (80360965)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ロールズ / ヘーゲル / 政治哲学 / 和解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一般にカント主義者として知られているロールズが、1985年のいわゆる「転回」以降に、ヘーゲルに近づいた理由を、当時の社会的・思想的コンテキストから明らかにするとともに、ロールズがヘーゲルから学んだ「和解」の思想に着目して、後期ロールズの正義論を「和解の政治哲学」として再解釈することである。 研究1年目の本年度は、研究代表者の専門であるヘーゲル法哲学に立ち返り、その「和解」概念の再検討から開始した。その手がかりとなったのは、ヘーゲルの「和解」概念を「承認」および「自由」概念との関連で読み解いた竹島あゆみ氏の労作『承認・自由・和解』の批判的検証であった。そのため、2018年6月に開催された日本ヘーゲル学会第27回大会で行われた同書の合評会に評者として加わり、竹島氏をはじめ専門家たちとヘーゲルの「和解」概念に関して生産的な議論を行った。 ロールズにかんしては、北海道哲学会ならびに北海道大学哲学会が2018年12月に共同で開催した「マルクス生誕200年記念シンポジウム」において、「ジョン・ロールズのマルクス解釈」というタイトルで研究成果を発表した。その際、ロールズが、マルクスを左派リバタリアンとして解釈するG.A.コーエンに依拠していることに着目し、ロールズのマルクス解釈の特徴を明らかにすることで、彼のリベラリズムの思想的位置を、リバタリアニズムや社会主義との相違から明らかにした。 また、本研究は、テキスト解釈にもとづく思想研究であり、関連文献の調査・収集が、研究遂行に当たって非常に重要である。地方の研究機関に所属する応募者は、その点で大きなハンディがあるため、国内外の拠点大学の図書館で定期的に収集を行う必要がある。本年度は、ヘーゲル・アルヒーフのあるルール大学(ボーフム)を訪れ、本研究に関連する文献を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヘーゲルとロールズに関して、それぞれ現段階までの研究成果を発表できた点で、有意義な1年目であった。しかし、その一方で、諸般の事情で、アメリカ合衆国への出張が実現せず、本テーマに関して先駆的な業績をもつ研究者(ニューヨーク州立大学のシュビル・シュヴァルツェンバッハ教授、カリフォルニア大学サンディアゴ校のマイケル・ハーディモン准教授など)と、直接意見交換をする機会を持てなかったのは残念であった。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目同様、ヘーゲルとロールズ、および両者の関連にかんする研究を深めていきたい。それとともに、本テーマに関する先行研究を徹底的に検討し、内外の研究の到達点と課題を明らかにし、これまで否定的に評価されてきた後期ロールズの政治哲学の意義と射程を明確にしたい。
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Causes of Carryover |
年度末に予定していたアメリカ合衆国への出張が、諸般の事情で中止せざるをえなかったため。この残額は、次年度の旅費として使用する予定である。
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