2023 Fiscal Year Research-status Report
刹那滅・同一性・再認をめぐる中世インドの哲学対話の解明
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18K00055
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
志田 泰盛 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (60587591)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 虚空の知覚可能性 / 空間定位 / 視覚外送説 / 闇の本質 / ミーマーンサー / ヴァイシェーシカ |
Outline of Annual Research Achievements |
インド思想史学会第30回学術大会において「虚空の視覚的表象と知覚可能性」と題した発表を行い、その内容は『筑波大学哲学・思想論集』に投稿し刊行された。 この研究は、仏教を含め広くインド古典の文芸的・哲学的作品を広く視野に含めて、虚空の知覚可能性という問題を主題に設定したものであるが、その中核は本研究課題である古典インド聖典解釈学派における音声の本性をめぐる哲学対話の分析となっている。 『詩節評釈』「音声論題」第88詩節後半--第121詩節前半において著者クマーリラは、話者から聴者までの空間を音声がどのように伝播するかという問題を批判的に検討する。音声の媒体とされる虚空が、音声を遮蔽する壁の中にも存在するかどうかに焦点が当てられる第97詩節後半--第98詩節前半にたいして、註釈者スチャリタミシラは膨大な紙幅を割き、虚空の実在性やその認識根拠をめぐる議論を展開する。そして、この注釈箇所の過半量を占めるのは、闇の本質をめぐる議論となっている。 虚空の知覚可能性をめぐる議論に、なぜ闇の本質をめぐる膨大な議論が挿入される必要があったのか、登場する各学説とそのソースを跡づけながら思想史的アプローチも試みているが、スチャリタミシラの『カーシカー註』に限らず主検討対象となる資料については利用可能な一次資料の全数調査に基づくものであり、相当数の手書き写本の解読に基礎付けた文献実証的方法論に基づいている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
写本の蒐集・解読・校合・校訂といった基礎研究には、難読箇所などのボトルトルネックが頻発するが、前年度までの着実な校合作業により、研究成果の発表につながった。
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Strategy for Future Research Activity |
感染症対策の影響で、国際学会が2年順延された上にオンライン開催となったり、多くの国内学会が急遽オンライン開催となったなどの影響で、当初見込んでいた旅費が抑えられ、研究費に若干の余裕が生まれたため、研究期間をさらに1年延長した。 また、2022年の国際サンスクリット学会において申請者が参加したパネルの主催者E. Freschi博士が、本研究課題の主題である思想家クマーリラに関する国際会議を2024年5月に開催し、申請者も参加することになったため、その準備や旅費などに本研究費の繰越金を充当する予定である。
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Causes of Carryover |
2024年5月にカナダで開催される国際会議 Kumarila Conference のテーマは、本申請課題に強く関連したものであり、その発表準備や旅費等での使用を見込んでいる。
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