2018 Fiscal Year Research-status Report
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18K00131
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
上山 典子 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 准教授 (90318577)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オペラ編曲 / 19世紀 / リスト / ブルジョワ階級 / ピアノ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ブルジョワ市民階級の台頭を背景に、19世紀の音楽市場でオペラ編曲が果たした役割を明らかにすることである。供給者=流通業者=需要者のすべてに利をもたらしたオペラ編曲の生産・流通・消費のサイクルを調査することで、家庭、サロン、演奏会という社会のあらゆる場で、編曲がオリジナル作品にも増して市民階級の音楽生活の中心に位置していたこと、そしてまた、音楽市場におけるこうしたオペラ編曲の存在が、彼らの音楽文化の興隆と発展に大きく貢献していたことを明らかにする。 2018年度はまず、リストが四半世紀以上の長きにわたり取り組んだ、友人ワーグナーのオペラ編曲全15曲を調査対象とし、それらn編曲手法の変遷を追った。日本ワーグナー協会編、『ワーグナーシュンポシオン』(アルテスパブリッシング、2018)に、「ワーグナー=リストのオペラ編曲」、16-32頁を寄稿し、リストが自身の社会的立場の転換を機に編曲の手法を変化させて「auf meiner Art」(独自の手法)の度合いを強めていった点を指摘した。 また、1830~40年代のヨーロッパ音楽界を席巻したグランド・オペラが、原曲のかたちとしての劇場上演よりも、むしろピアノ用編曲を通して、家庭、演奏会、サロンなど、ブルジョワ市民が出入りする場で大量に消費されていた実態を考察した。この点に関する論考は、澤田肇ほか編『《悪魔のロベール》とパリ・オペラ座――19世紀グランド・オペラ研究』(上智大学出版、2019年)、第I部 第5章「グランド・オペラとピアノ編曲――近代市民社会におけるオペラの流通」、118-140頁に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は19世紀のオペラ編曲、とりわけ当時の音楽界を象徴し、かつブルジョワ市民階級の勃興と極めて密接な関係にあった「グランド・オペラ」(グラントペラ)の編曲に注目するものだが、今年度はその始まりにして典型的作品とされるマイヤーベーア(1891-1864)の《悪魔のロベール》(1831年、パリ・オペラ座初演)を集中的に取り上げることが出来たことが、重要な成果につながった。しかし本研究の目的は、ある特定の作品だけでなく、グランド・オペラ(場合によっては、その他のオペラ、歌曲などのジャンルも含める)の編曲を網羅的に扱うことによって達成されるものであり、次年度以降は、より多くの作品を見渡していけるよう努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、19世紀ヨーロッパにおける編曲譜の流通を中心テーマに、1) どのような編曲がより多く作成され、ヨーロッパのどの都市で出版されていたのか、2) また、そのような編曲譜はどのよう音楽リテラシーの階層が購入し、彼らの音楽生活でどのように使用されていたか、を明らかにしていきたい。 具体的には、世紀半ばに大量に作成されたグランド・オペラの編曲を調べ上げ、それらの出版状況を原曲のパート譜/総譜の出版と比較照合する。それにより、当時のオペラがピアノ用編曲譜を通して、地理的にも社会階層的にも広範囲に流通していたことを実証する。次に、当時のオペラ編曲譜を閲覧することで、音楽的特徴、難易度、編曲方法を分析するとともに、献呈者、序文、価格、紙質や模様といった装丁を確かめる。さらには、演奏会の告知文書や関連記事を当時の音楽雑誌・新聞から探し出すとともに、演奏会レビューを参考に、こうした編曲の演奏が対象とした聴衆の層と演奏の頻度、聴衆の人気と世間の評価についても考察していきたい。
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Causes of Carryover |
編曲やサロンに関する複数の最新文献が2019年3月以降に出版されることが分かっていたため、当初2018年度分として確保していた洋書購入費を、次年度に入ってから使用することにした。
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Research Products
(2 results)