2022 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental Research on the Scholarly Interactions of Qing Dynasty Literati Artists Who Came to Western Japan
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18K00179
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
呉 孟晋 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (50567922)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 来舶清人 / 書画交流 / 森琴石 / 羅清 / 呉石僊 / 廉泉 |
Outline of Annual Research Achievements |
「来舶清人」とよばれる江戸から明治時代にかけて来日した中国・清時代の文人たちの書画作品の調査を主体とする本課題は、2022年度も新型コロナウイルス感染症の感染状況が一進一退を繰り返すなかで、新規の調査対象開拓は控え、おもにこれまで実施してきた調査先での追加調査をおこなった。 明治初期に大阪で来舶清人の活動を支援した森琴石の子孫にあたる個人宅では、これまでに調査した中国書画に加えて、琴石が中国絵画を臨摸した下絵類を集中的に調査した。そのなかに伊孚九や陳逸舟、沈萍香らの山水図の写しがあり、琴石が直接交流した清人よりも時代が上る画人たちからも積極的に画法を学んだことがわかった。前年度21年に調査した京都・個人では、明治期の東京に逗留した羅清による指頭画の山水図を実見した。為書きは消されていたものの款記から東京で制作したことがわかる作例として貴重で、指で画くという特技で引き合いがあったことがうかがえるものであった。また、篆刻家であった京都・個人では明治後期に来日した呉石僊の山水図の大きな未表装作品を発見。西洋画法も習得したとされるこの画家については大阪・個人でも扇面作品を調査できた。なお、岡山の野﨑家塩業歴史館での調査は「備前児島の野﨑家に伝わる文化財の総合調査」(研究代表者:永島明子氏)と相乗りで実施し、「新南画」をはじめとする明治・大正期の日本の文人画における中国趣味を確認した。 感染状況の急変にそなえて、所蔵者対応を要しない展覧会の参観調査も積極的におこなった。22年は黄檗宗の祖である隠元隆琦の350回目の年忌にあたることから黄檗美術の展覧会が数多く開催され、長崎歴史文化博物館や滋賀・観峰館の展示では長崎や近江といった個々の地域が黄檗宗によってつながってゆく様相が理解できた。このほか、東京の久米美術館や松岡美術館では、コレクションのなかにある来舶清人作品を参観できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍も3年目となり、作品調査を主眼とした本課題にとって、前年度と同様に九州など関西から遠方にあたる地域での調査がすすんでおらず、依然として具体的な「書画の道」を見通すまでにはいたっていない。また、前21年度の報告でふれた大正初期に来日した書画収集家・廉泉による明清の扇面画コレクション(個人蔵、東京国立博物館寄託)については、廉泉自らが選別して刊行した『名人書画扇集』(上海文明書局、1915年)の影印本が21年に中国で出版されるなどといった事情から報告書の刊行を見送ることとなった。 ただし、作品調査を継続してゆくなかで、個々の知見は蓄積されてきている。廉泉の扇面コレクションの調査は数百枚にのぼる現況をすべて確認し、画史に著録されていない逸名の画家の作や女性画家をあつめたまとまりには見るべきものが多いことが明らかとなった。その成果は2023年夏に東京国立博物館で予定されている展示に反映することになっている。森琴石とかかわった清人の詳細については、東京大学大学院教授の陳捷氏との共著で京都国立博物館の紀要『学叢』にて発表した。また、前述の下絵調査の成果は台湾・中央研究院が主催したシンポジウムにて発表することができた。 こうしたミクロな個別研究に加えて、「書画の道」の提示というマクロ的な見取り図の構築に向けての作業は、非公式の定例研究会などでの発表をとおして見取り図の修正を繰り返し試みている。たとえば、報告者が所属する京都大学人文科学研究所内の研究班「「日本の伝統文化」を問い直す」(班長:重田みち氏)にて「明治期の来舶清人の動向について」と題して報告をおこない、西日本を中心に展開した清人の書画活動の範囲の広大さと多様さを指摘。参加者から地方画壇との相関性についての指摘を得るなど、日本の地方美術史の文脈のなかでも検討してゆく視座を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
翌2023年度が本課題の最終年度となるため、これまでの5年間で蓄積できた知見をもとに「書画の道」の様相について提示してゆくという最終目標に向けて注力する。 「書画の道」については、前年度までの報告書に記載したように、長崎から京都まで街道に沿って直線的に構築されているわけではなく、時代ごとにさまざまな収集者たちの手を経て、西日本各地に分散・分蔵されていることからも単純なモデル化は意味をなさないことがわかっている。むしろ明治期の森琴石のように積極的に中国書画に関心を寄せた画人たちや支援者たちの個人的なネットワークにより展開していったのであり、彼らの存在についての再評価をすすめるなかで明らかになってきた、彼らが居住もしくは逗留した地域を中心とする面的な広がりに目を向ける必要があろう。 そのためには、これまでと同じように作品調査と文献資料による基礎的な検証が不可欠である。作品調査については、コロナ禍で十分に実施できなかったゆえに最終年度でも継続して実施するが、できるだけまとまったコレクションを対象とするなど、効率的に調査をおこなえるようにしてゆく。そのなかで、こうした見解の妥当性を検討する事例を少しでも多く積み上げてゆくこととしたい。文献調査については、これまでに収集した文献資料の精査をひきつづきすすめるとともに、中国書画に関連する図書も幅広く収集して検討のための材料を増やしてゆくことにしたい。 これまでにシンポジウムや研究会などで口頭発表の機会を得た知見については、論文などで公刊してゆくつもりである。そのうえで、新たに得られた知見や見解についても積極的に公表の可能性をさぐってゆきたい。
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Causes of Carryover |
前年につづいて作品調査のための旅費を十分に執行できなかったこと、そして前述の報告書刊行計画が中止となったことの二つが大きな理由である。とくに旅費については九州など遠距離の国内調査がほとんど実施できず、当初計画で想定していた海外調査もまったく実施できていない。23年度は特段のコロナ対応を要しない5月以降に国内調査はもちろん、台湾やアメリカの美術館などでの海外調査の実施についても検討してゆく。 調査作品の件数の増加にともない、参照すべき文献を中国など国内外から取り寄せたり、画像データ整理などのためのデジタル機器を購入したりするなど、物品費を中心とした執行も増えてゆくことが予想される。また、中止となった報告書刊行に代わる成果公開の方法についても早急に検討してゆくこととしたい。
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Research Products
(4 results)