2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00209
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Research Institution | Aichi University of the Arts |
Principal Investigator |
阪野 智啓 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (00713679)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
龍澤 彩 金城学院大学, 文学部, 教授 (00342676)
中神 敬子 京都造形芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (10750474)
岩永 てるみ 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (80345347)
高岸 輝 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80416263)
本田 光子 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (80631126)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | やまと絵 / みがきつけ / 雲母地 / 浜松図屏風 / 復元 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、中世やまと絵屏風に用いられた光り輝く絵画材料の表現技法について分析を行い、復元図を作成することによって中世独特の光輝表現を再現することを目的としている。中世、特に室町時代を中心に現れたやまと絵屏風は「みがきつけ屏風」と呼ばれ、雲母の地色に金銀箔で撒きつぶされた大きな雲霞が画面を装い、屏風全体が光り輝く素材に満ちている。これまで筆者が培ってきた金銀技法研究と、中世やまと絵屏風や絵巻に登場する画中画屏風の調査に加えて、表現が類似する料紙装飾技法を複合的に検証し、技法を再現することによって、近世以降に忘れられた中世やまと絵屏風の高度な装飾性をよみがえらせたい。 中世やまと絵屏風の光輝表現再現に欠かせない要素として、特に雲母地に着目した。現存する多くのやまと絵屏風は雲母地に金銀を撒き潰した「みがきつけ屏風」となっている。ところが、絵巻物には雲母地に青い雲霞がたなびく、実にやまと絵らしい風情の屏風や襖も少なからずある。しかしながら、このような雲母地に青い雲霞の現存する中世の屏風はほとんどない。そこで、雲母地を全面的に活かした表現として良く取り上げられる「石山寺縁起絵巻」画中画の「浜松図屏風」を復元することに照準を定めた。同時に、その他の東博本と個人蔵本「浜松図屏風」のみがきつけ技法も再検証し、雲母地と金銀箔の技法的な相関性も検討を加える。 雲母地は近世資料から「糊地」と呼ばれていたことが判る。現在でもそのように呼ばれることがあり、その実技検証として扇師の木田雅之氏から糊地の技法の手ほどきを受けた。扇の地塗りには文字通り糊(正麩糊)に雲母を混ぜて塗布されていることや、滲みどめを兼ねていることが判った。また磨くことも示唆されている。また雲母の用い方として、「遊行上人絵巻」画中画から群青に混ぜている可能性も見出された。実際にいくつか試作を試み、「雲母群青」の効果を確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光輝表現を追求するための大きな足掛かりとして雲母地に着目していたが、その効果を最も実証できるであろう「石山寺縁起絵巻」画中画の表現について、分析を始めている。この画中画はいわゆる「浜松図屏風」であり、現存する東博本や個人蔵本「浜松図屏風」とはみがきつけの雲霞が無いことから印象を異にするが、雲母地が明らかなことからまさに中世やまと絵屏風を象徴するといっても良いだろう。その表現を追求することに定められ、準備が進捗した点において30年度は成果があったと感じている。 具体的には、「糊地」と呼ばれた雲母の用い方を、扇師の木田雅之氏から指導を受けることができ、輝くような雲母地の再現に現実性がでてきた。正麩糊を用いる糊地は、滲み止めの効果を兼ねていることから、箔を用いる際の接着剤をも兼ねていた可能性もある。金銀箔をもちいる「みがきつけ」の技法との関係性もあるだろう。現存浜松図屏風の縁のある雲霞の表現方法にも影響があると考えている。 また雲母地の技法として、「雲母群青」という用い方があることが判った。画中画浜松図にも青い雲霞があり、また個人蔵本では雲母地に青い海が描かれ、煌めきを感じる。これらの表現方法は雲母地に群青を重ねているものと考えていたが、分担者の髙岸輝氏が調査した「遊行上人絵巻」画中画に「光る群青」があることを教えられた。その調査報告から、群青に雲母を混ぜた絵具で試作を行い、その効果を確かめている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、「石山寺縁起絵巻」画中画の復元を進めていく。糊地の再現性を高めるため、その実技的な検証を積む必要があると考える。また雲母そのものの質も検討する必要があるだろう。現代の雲母と、中世に精製していた雲母とでは、肉眼観察の限りでは印象にやや相違がある。現代の精製方法や、産地を取材して、往古の作成方法を検討する足掛かりとしたい。 また糊地はみがきつけの技法や、縁のある雲霞、さらには金箔を平押しすることにも影響があるのではと推察する。縁のある雲霞では縁蓋を用いる必要もあるが、それと糊地との併用の仕方を検証する必要がある。また室町時代のやまと絵屏風の調査報告に、金箔平押しの下地に雲母が塗布されていることが挙げられている。その効果や意味がいまいち不明だが、あるいは糊との関わりがあるかもしれない。中世の金箔の製造方法等も検討しつつ、糊地とみがきつけ、あるいは金箔押しとの実技的な関係性を試作を通して考察したい。その準備として、金沢の金箔業者の協力のもと、中世から近世によく見られる継ぎ重ねのある箔の再現も進めている。 さらには、浜松図に確認できる青く輝く表現も引き続き追及する。「遊行上人絵巻」画中画から得られた雲母群青の可能性を、その熟覧調査も交えながらさらに検討を加える。 多くの画中画で、浜松図の屏風は「人が寝ている」空間を囲っている。関係性はいまのところ判然としないが、輝く浜松図屏風について、どのように用いられていたのか考察を加えられたらとも考えている。
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Causes of Carryover |
30年度は復元屏風の予備調査や、各技法の検証が先行して進んだため、原寸大屏風の復元に当て込んでいた予算が未使用になった。先行した技法検証の成果を踏まえて、復元屏の制作に31年度に取り掛かる予定であり、それに関わる協力者謝金や材料費に使用する計画である。
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