2020 Fiscal Year Research-status Report
手がかりの提示による空間における身体誘導のための新しいメディア表現方法論の研究
Project/Area Number |
18K00218
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Research Institution | Tama Art University |
Principal Investigator |
菅 俊一 多摩美術大学, 美術学部, 講師 (30740716)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野間田 佑也 多摩美術大学, 美術学部, 准教授 (20627004)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 表現方法論 / メディアデザイン / コグニティブデザイン / 視線 / 誘導体験設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「点や線などのリミテッドな情報提示によって、空間内で鑑賞者の身体誘導を行う」新しい表現方法を開発することを目的としており、中でも単純な矢印や線といった図版以外の、人間の顔認知能力を用いることによってはじめて方向性を感じることのできる、顔図版の視線による方向提示を用いることで鑑賞者の注意を制御する可能性について取り上げ、実際に体験設計を行うことで検証し、顔図版による視線を用いた空間内での鑑賞者の身体誘導デザインの手法化を試みるものである。 研究の3年目である2020年度は、前年度に課題として挙げていた大規模空間という条件下で、どのように視線による誘導デザインが可能になるのか。そのデザイン言語を獲得するため、6月に実際に大学の撮影スタジオを使用して実寸で顔図版を配置することで、顔図版による視線が行われる誘導体験の実証を行った。合わせて、スタジオでの検証を行う前に事前設計するためのプロトタイピングツールを開発し、模型レベルでの検証も可能にした。 実際の大規模空間上での顔図版のレイアウトにおいては、一度に全体の顔図版が視野に入らないよう図版自体を立体的に向かいあう位置関係で配置を行うことで、視野の中で首を動かすだけでは視線のリンクを辿れなくさせる、徒歩による身体移動による回り込みの誘導や、10m以上離れた場所に対しても視野の範疇であれば直線的に視線によって誘導することが可能になる、視線の影響範囲についても実体験で確認することができた。これにより、空間内で顔図版による視線を用いた身体誘導のデザインを行うための概念的な基盤を整理することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、表現研究という形をとっているため、基礎的な表現手法の検証として試作を繰り返し、実際に試作を体験する中で起きる知覚作用や効果を確認しながら、手法として機能する要素を絞り込んでいくことが重要になる。 その上で2019年度から課題として挙げていた、実際に視線という誘導指示エレメントが、ギャラリーなどの小スペースではなく、実際に社会における環境に近い広いスケールの空間においてどのようにはたらき得るかということに関して、実寸で具体的に検証しながらどのようなデザインがあり得るかを確認できたことは、重要な意義があると考えている。 合わせて、そのデザインプロセスにおいて、広い空間で試行錯誤をし続けるのは現実的ではないため、空間の規模にとらわれない視線相互の位置関係のデザインに基盤を置いたプロトタイピングツールの開発に着手できたことは、本研究が表現方法論の提示を目的としているという点において研究上重要な試みであったと考えている。 しかし、複数人による実空間におけるテスト・実験についてはCOVID-19感染拡大の状況で実現出来なかったため、その分の進捗に遅延が発生した。対応としては研究期間を1年延長し、次年度に研究成果のアウトリーチを兼ねた公開型の実験としての展示会について感染状況を注視しながら、オンラインでの実行可能性も含めて検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題における今後の研究の推進方策は、大きく3つの段階に分けて行うことを考えている。 1つ目は視線の影響範囲の検証である。2020年度に行った実証によって、広い空間において顔図版の視線による誘導は、ターゲットとなるオブジェクトが視認できれば、10mを超える遠距離でもはたらくことが確認されたが、これは同一平面上に配置された場合に直線上に影響が及ぶとも言える。一方で、平面によって表現される顔図版を立体的に配置された状況でも相互に影響が及んだことから、例えば箱のような各面が接続されている状況において、天面に配置された顔図版が側面に視線によって影響を及ぼせるといったように、視線の影響範囲が単に線としてではなく、定義された面に沿う形ではたらく可能性が考えられる。これらを実際に検討することで、視線の誘導エレメントとしての可能性の拡張を行う。 2つ目はプロトタイピングツールの確立である。現在は、3Dプリンターで出力した自立型パネルを配置するような形になっているが、高低差の検証にどう対応するかなどまだ課題があるため、前述の視線の影響範囲の検証と並行する形でツール自体のデザインの検討も進め、実際にキットの形で公開できるような状況まで進めることを目指す。 3つ目は実際にどのように誘導が行われるかの実験である。2020年度はCOVID-19の影響で実施できなかったが、本研究は実空間での移動が重要な鍵となるため、感染状況を慎重に確認しながら対策を施した上で実施したい。また、本研究が目指す誘導体験は、体験者が実際にどのように情報を得て判断したのかを深く検証する必要があるため、人数を絞り体験後にデプスインタビューを行うことで、体験自体の質的な評価軸を示すことを試みる予定である。
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Causes of Carryover |
前年度夏に、大規模空間における展示の実験を行う計画で、実際に被験者(鑑賞者)と運営側の人件費や展示空間構成の費用として予算を使用する予定だったが、COVID-19 の影響が収まらず実施が困難となり開催を見送ったため、その分の費用が次年度使用額として生じた主な理由である。 これらの予算に関しては、今年度夏に延期して実施する予定の大規模空間における展示実験や、展示空間以外の印刷物やオンライン上で体験設計して行う研究成果発表の実施費用として使用する予定である。
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