2019 Fiscal Year Research-status Report
科学史叙述の新モデル構築に向けて─20世紀フランス思想における科学史研究の再検討
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18K00257
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
立木 康介 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (70314250)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 泰考 滋賀大学, 保健管理センター, 教授 (20378433)
田中 祐理子 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (30346051)
隠岐 さや香 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (60536879)
春木 奈美子 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (60726602)
瀬戸口 明久 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (90419672)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 数学 / 病理学 / 身体 / まなざし / 真理 / 言語 / 考古学 / 系譜学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀の科学史研究に多大な影響を与えた、G・バシュラールからG・カンギレムを経てM・フーコーに至るフランスの科学思想史の系譜を精査するとともに、この系譜に連なる一連の科学史的業績をいわば叩き台にして、18-19世紀から現代に至る科学的知の歴史的な展開及び曲折を記述するにふさわしい新たな科学史叙述の可能性を探る試みである。「精神医学研究班」「生物学・医学研究班」「数学・統計学研究班」の三つのサブ・グループから成り、それぞれのサブ・グループが同時並行的に研究を進めつつ、研究会の場を通じて相互の成果を共有し、撚り合わせてゆくスタイルをとる。2019年度は、前年度に引き続き、京都大学人文科学研究所における共同研究「フーコー研究──人文科学の再批判と新展開」とタイアップしつつ、その研究会(例会)を利用して、「数学・統計学研究班」からは分担者・隠岐が、フーコーの「知の考古学」における数学の位置づけの例外性に、この考古学プロジェクトの破綻を見るダヴィド・ラブアンの学説を検討する発表、「精神医学研究班」からは代表者・立木が、『臨床医学の誕生』においてフーコーが提示した「まなざし」と言語の関係を再考する発表をそれぞれ行った。また、本研究の成果を含む業績として、「生物学・医学研究班」を代表する分担者・田中祐理子が著書『病む、生きる、身体の歴史──近代病理学の哲学』(青土社)を上梓する一方、岩波書店『思想』9月号の特集「未完のフーコー」に、隠岐がラブアン著「数学という例外」の翻訳を、立木が論文「まなざし、鏡、窓──フーコーとラカンの『侍女たち』(前)」を発表した(同論文の後編は同誌12月号)。さらに、1月には、フーコー研究の国際的な第一人者のひとりフィリップ・サボ(リール大学副学長、ミシェル・フーコーセンター所長)を招き、公開セミナー「ミシェル・フーコーによる真理とフィクション」を開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「概要」欄に記入した本研究の三つのサブ・グループのうち、「生物学・医学研究班」のミッションは、生物学及び医学の近・現代における展開と曲折について、フーコーの科学史的研究を検討しつつ、カンギレムの技術論及び規範性の哲学との関わりを解明することに存する。分担者・田中の新著『病む、生きる、身体の歴史──近代病理学の哲学』は、そのまま、まさにこのミッションを達成したとみなしうるすぐれた成果である。また、「数学・統計学研究班」は、18世紀における数学及び数理科学の発展と同時代の啓蒙哲学思潮との相互的な影響関係を辿りつつ、数理科学によって生じた哲学史上の重大な認識論的変転の実相を追究するとともに、フーコーによる考古学的科学史記述における「閾」概念の有効性を再検討することをめざす。分担者・隠岐による研究発表は、ダヴィッド・ラブアンの鋭利な批判に依拠しながら、フーコー的「考古学」が数学の例外視において内的に破綻することを指摘する一方、フーコー自身の数学観を度外視して数学史を再検討すると、むしろ、17・18世紀に一貫したひとつの知的傾向を見いだすフーコー的考古学(とりわけ『言葉と物』に提示された視座)と反響し合う部分が見いだされることを示唆した点で、この方向性に沿った成果であるといえる。一方、『狂気の歴史』から『精神医学権力』に至るフーコーの精神医学史研究の社会史的・制度論的スキーム、及びそのなかでの精神分析の位置づけについて、再検証を行うという、「精神医学研究班」の目標に照らすと、いわばその基礎研究のひとつとしかみなせないものの、代表者・立木の論考「まなざし、鏡、窓──フーコーとラカンの『侍女たち』」もまた本研究の所産であることに変わりはない。当初の予定に比べ、いささかフーコー研究のほうに引き寄せられすぎているとはいえ、本研究の進捗がおおむね順調であると判断する所以である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を迎えた本研究には、すでに結果が表れた取り組み(上述の諸成果)や、現れつつある取り組み(19世紀末に確立された「強迫神経症」概念を軸に『狂気の歴史』の再読解を試み、1980年代の精神医学の「生物学的転回」の産物といえる「強迫性障害」への考察へとそれを繋げる分担者・久保田の2018年度の発表)が存する一方、いまだ積み残されたと言わざるをえない課題もある。「精神医学研究班」にかかわる、ルネサンス以降19世紀後半までの精神医学史と、その関数ともいうべき近代的「主体」の病理学的把握の変化の諸相を捉え直すという前年度来の課題や、「数学・統計学研究班」にかかわる、数理科学と社会的・政治的な実践・要請の相関性を統計学、経済学の史的展開を通して検討し、これと統治論の関係を追求するという課題などがそれである。2020年度には、これらの「積み残し」の課題に積極的にアプローチしつつ、研究全体をまとめる作業を行っていく。具体的には、京都大学人文科学研究所における共同研究「フーコー研究──人文科学の再批判と新展開」(この共同研究は2019年度にて終了した)に本研究と並んで参加していたもうひとつの科研費プロジェクト:「ミシェル・フーコー「コレージュ・ド・フランス講義」総体の理論的・思想的研究」(代表・佐藤嘉幸、筑波大学准教授)と共同で編集し、2020年度内の刊行をめざす一冊の論集のかたちで、最終成果の報告を行う。また、コロナウイルスの感染拡大により、海外の研究者コミュニティとの交流の見通しは立たないものの、フランスの科学史・科学哲学研究ユニティCAPHES(本部はパリ高等師範学校)との連携についても、引き続き、これを深める方途を探り、将来的な共同作業の実現を目指したい。
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Causes of Carryover |
前年度に行われる予定だったが実施できなかった海外の研究者コミュニティとの交流事業を、2019年度も依然として行えなかったことにより、前年度来の剰余金(繰越金)を消化できなかった。 COVID-19の感染拡大により、海外の研究者コミュニティと連携して行う事業の開催は、2020年度も見通しが立たないが、こうした事業が行えない場合には、当該の金額は、2020年度に請求される助成金と併せて、研究代表者および分担者による研究会の国内開催や、研究資料の購入に充当する他に、最終成果報告書の作成に惜しみなく投入したい。
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Research Products
(4 results)