2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00406
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
齋藤 一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20302341)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 長崎 / 原爆 / 伊東勇太郎 / 引田稔 / 瓊林 / 英文学 / フランス文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30(2018)年度は、2018年9月と2019年3月に長崎市を訪問し、長崎大学(中央図書館、経済学部分館)において、長崎経済専門学校時代から新制長崎大学経済学部で活躍した英文学者の伊東勇太郎(1889年~1980年)の足跡について調査をおこなった。伊東はシェイクスピア研究者であるが、大学での授業では19世紀の小説や詩(ディケンズやワーズワースなど)について講義をしたこと、漢籍についての該博な知識を披露していたことなどが、同窓会誌『瓊林』(けいりん)に掲載された卒業生たちの文章から確認できた。 重要なのは、伊東が長崎原爆について少なくとも2回応答していたことへの言及が、調べた限りでの卒業生の文章にはなかったことである。伊東は1945年12月、『長崎新聞』の編集部に請われてアーネスト・ロブソンというアメリカ人軍属の詩を英訳して新聞に掲載した。また、1955年、旧・長崎医科大学正門跡の門柱碑文の英訳を手がけている。ところがこれらについて、同僚の教員の言及はあるが、卒業生たちの言及がないのである。卒業生たちが作り上げた、西洋東洋の文学に詳しい温厚な知識人という伊東のイメージを相対化し、アメリカ軍による原子爆弾の投下という日米双方にとってトラウマに直面した知識人としての営為をさらに明らかにすることで、現代における英米文学研究の意義を再考する必要があることをあらためて確認できた。 なお、同窓会誌『瓊林』などを調査することで、伊東の若い同僚であったフランス文学者、引田稔(1915年~1987年)が、1973年のフランスによる南太平洋ムルロア環礁での核実験に明確な反対の立場をとり、主要新聞『ル・モンド』などの関連記事を分析していたことを知ることとなった。これは研究当初想定していなかった発見であったが、その意義について研究論文を執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年9月と2019年3月の長崎市における資料調査の結果、英文学者の伊東勇太郎についての文章を、同窓会誌『瓊林』掲載分については、ほぼ全て確認することができた。長崎のローカルメディア、例えば『長崎新聞』などに伊東が寄稿していることもわかった。さらに、1949年に広島市を訪問、原爆被災者への追悼と復興を願って詩を書いたイギリスの詩人Edmund Blundenが長崎市を訪問した際に伊東も応対していたことがわかった。 2回の調査の副次的な成果として、フランス核実験に反対したフランス文学者の引田稔の文章を発見し、その意義を論文として発表することができた。 ただし、当初目論んでいた長崎大学のアメリカ文学者、藤井昌子(長崎原爆については、長崎女子師範学校があった大村市で間接的にその被害を見聞している)については、1955年に開催されたアメリカ人のノーベル賞作家ウィリアム・フォークナーのセミナー(通称「長野セミナー」)に参加したことが明らかになったことがわかったが、それ以上に新たな資料を発見することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
伊東が寄稿した『長崎新聞』などの地元メディアについての調査は、こうしたローカルメディアの電子媒体が整備されていないため、伊東の長崎原爆との関わりをさらに詳しく調査するためには、調査対象とする時期とキーワードを厳選することが必要である。また、英国の詩人エドマンド・ブランデン(広島市を訪問した際に広島原爆犠牲者の追悼と復興を願う詩を書いている)が長崎訪問時に講演をおこなった際、伊東が応答していることについてもさらに調査する必要がある。 伊東については、平成31年度の調査研究成果の報告として、令和元年度(2019年度)中に論文を執筆する予定である。 なお、藤井については、長崎大学や長崎市内の図書館での調査では今後の研究の方向性を見いだすことができなかった。藤井についての研究を推進するのはひとまず保留して、伊東について集中的に研究することも検討する必要がある。
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Research Products
(1 results)