2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00406
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
齋藤 一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20302341)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 英文学 / 原爆 / 長崎 / 伊東勇太郎 / ブランデン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、戦前・戦後の長崎市で活躍した英文学者伊東勇太郎と、1949年に長崎市を訪問したイギリスの詩人、エドマンド・ブランデンについて、主として文献調査を行った。 昨年度は、旧・長崎医科大学正門跡に設置された「碑文」の英訳に、原子爆弾を投下したアメリカへの「配慮」を読み取る研究ノートを発表したが、今年度は1949年に長崎市を訪問し英語で講演を行ったイギリスの詩人エドマンド・ブランデンと伊東との関係について基礎的な調査を行った。 すでに伊東がブランデンの講演に質問をしたという卒業生の回想は確認している。また、今年度になってブランデンの詩集(私家版)に伊東に贈った詩があることがわかった。ただし、ブランデンの講演がどのようなものだったのか、ブランデンと伊東との関係については明らかになっていなかった。そもそも全国紙のデータベース検索等では、ブランデンの長崎講演の内容について調べることができなかった。そこで、2020年2月、長崎県立図書館郷土資料室において、長崎県の新聞『長崎日日新聞』と『長崎民友新聞』について調査を行い、ブランデンの講演の内容を把握することができた。それは、例えば英国詩人スティーブン・スペンダーが1957年に広島市で行った、日本の原爆詩を批判しつつT・S・エリオットの伝統論と「荒地」の重要性を強調した講演とは異なり、イギリスのロマン派以降の詩についての教科書的かつ概説的なものであった。このような概説的な講演に対して、被爆地の英文学者である伊東がどのように応答したのか、あるいはしなかったのかという点については、さらに調査を進める必要がある。 もう一点、長崎での調査中に、太平洋戦争末期の入学者で伊東に英文学を学んだ学生の記述を発見し、伊東が何を教え、学生がどう受け止めていたのかを確認した。これは活字化したが、発行は次年度になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
伊東については昨年度の成果を研究ノートとしてすでに活字化したが、その際に検討ができなかった案件、すなわち1947年の英国詩人エドマンド・ブランデンの長崎市訪問と講演(伊東はこのイベントに関わり、ブランデンから詩を贈られている)について、ウェブ検索が不可能な長崎の地方新聞、『長崎日日新聞』と『長崎民友新聞』を長崎県立図書館郷土資料室において閲覧することで、この講演がどのようなものであったのかについて知ることができた。 また、太平洋戦争末期の入学者で伊東に英文学を学んだ学生の記述を発見した。これによって、伊東が何を教え、学生がどう受け止めていたのかを確認することができた。このことはすでに活字化したが、発行は次年度になる。
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Strategy for Future Research Activity |
1949年のエドマンド・ブランデンの長崎講演に対する伊東の応答についてさらに調査する。現時点では、ブランデンが原子爆弾で破壊された長崎市を訪問することにナーバスになっていたこと、ブランデンが長崎市で出会った伊東に詩を送っていること、そして伊東がブランデンの講演に質問をしたという、長崎大学経済学部の卒業生の回想があるのみである。ブランデンが原子爆弾のもたらした被害にどのような立場からどのようにナーバスになっていたのか、そのことは彼の講演に影響を及ぼしていたのか、そして原子爆弾の被害を目の当たりにしていたはずの伊東のブランデンに対する質問はどのようなものだったのかを、さらに文献調査等を通じて明らかにする。このケースをさらに研究することは、原子爆弾のもたらす惨禍に異なる立場から関わった文学者の応答ぶりを具体的に明らかにすることになり、ひいては危機的状況における文学者の営為の意義を問い直すことにつながる。
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Research Products
(1 results)