2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00406
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
齋藤 一 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (20302341)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 原子爆弾 / 長崎市 / 伊東勇太郎 / Robert Lynd / ロバート・リンド / 英文学 / 学生 / 読者反応論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、新型コロナ禍の悪化による移動制限や、長崎市の大学・公共図書館や文書館における、他県者在住者による長時間の資料閲覧の制限または禁止により、英国の詩人で被爆した長崎で講演を行ったエドマンド・ブランデンについて資料調査を行うことができなかった。そのため、昨年度の実績報告書に記入した案件、すなわち「長崎での調査中に、太平洋戦争末期の入学者で伊東に英文学を学んだ学生の記述を発見し、伊東(勇太郎、長崎の英文学者)が何を教え、学生がどう受け止めていたのか」について、すでに調査した資料を解釈することに努めた。詳細は拙論「学生が読みかえるテクスト」(2020)に記したが、ここではその概略を示す。 伊東は太平洋戦争末期に長崎経済専門学校(現・長崎大学経済学部)の学生に、イギリスのロバート・リンド(Robert Lynd, 1879-1949)の「よく知られている無関心さ」("The Old Indifference”)を教えていた。これは、数百万人単位の犠牲者を出した第一次世界大戦(1914-1918年)を背景として、知人・友人が亡くなろうとも、偉大な英国の詩人たちが描写したように、空が落ちてくるといったようなことはなく、世界それ自体は人間の生死に無関心である、という内容である。このような内容のエッセイを、戦場で世界の「無関心さ」の犠牲になるかもしれない学生たちに読ませた伊東の心境は不明である。重要なのは、伊東の心境や意図ではなく、このエッセイを伊東のクラスで学んだ(元)学生たちの主体的な作品解釈である。学生の一人は、長崎原爆から数十年後に被爆体験を想起する際に、このエッセイの冒頭部を暗唱しつつ、その文言を微妙に変更し、亡くなった友人を懐古するための導入としている。このことは、作品(テクスト)というものが、作者や教師だけのものではなく、学生、さらに言えば読者のものでもあるということの好例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
長崎市の公共図書館、特に県立長崎図書館郷土課(https://miraionlibrary.jp/local_materials/)における資料調査ができなかった。新型コロナ禍の影響で、施設の閉鎖あるいは他県在住者による長時間の閲覧の停止といった措置が取られたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
1949年に被爆地の長崎市でイギリス文学、具体的にはロマン派やシェイクスピアについて講演した詩人のエドマンド・ウィルソンの講演内容についてさらに調査を行い、彼の講演が占領下の日本においてどのような意味を持っていたのかを明らかにする。ただし、新型コロナ禍により状況が悪化した場合には、2019年度に収集した資料の解釈を主たる研究とする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの蔓延による移動制限や、公共施設、特に長崎大学中央図書館や経済学部分館、また長崎市の公的公共図書館や文書館における他県在住者による長時間の調査ができなかったため、残額が54,256円となった。この残額について、2021年度は、新型コロナウイルスの感染状況を勘案しつつ、国内調査、特に長崎県での資料調査旅費に使用することを予定している。調査を実施できない場合は、資料の取り寄せや国内外の研究誌への投稿に充当することも考えている。
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Research Products
(1 results)