2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00423
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
石倉 和佳 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (10290644)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深川 宏樹 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (00821927)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イギリス文学 / 百貨事典 / ハワイ / ジョージ・バンクーバー / 航海記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではロマン主義期にイギリスで出版された百科事典の編纂と出版について検討し、百科事典の記述の特質を考察するものである。ロマン主義期の百科事典については、知識を一つの書物に纏めるという編集の努力から、多くの百科事典が並列して発行されるという出版競争へと発展した。この中で出版競争を勝ち抜いたものが『ブリタニカ百科事典』である。今年度は、昨年度考察した『ブリタニカ百科事典』のハワイにおける記述に関する各版の論考を出発点に、太平洋探検およびハワイ史において非常に重要なジョージ・バンクーバーの航海記(1798)を検討した。この成果は「忘却と追憶:ジョージ・バンクーバーの太平洋航海」として論文に纏めている。『ブリタニカ』のハワイに関する記述にバンクーバーは登場しないが、本論文では王立協会会長のジョセフ・バンクスの介在がバンクーバーの評価に影を落とした状況を明らかにし、バンクーバーの航海記がロマン主義期の探検記として重要な著作であることを示した。現代ではイギリス海軍史や海洋探検史においてバンクーバの研究がなされているが、英文学領域では取り上げられることがほとんどないため、今回の論考はその点においても重要であると考える。 また、バンクーバー旅行記の出版年が、ワーズワスとコールリッジによる『リリカル・バラッズ』と同年であることから、書評誌において同時期に取り上げられていることが分かり、当時の書評文化の中での文学と航海記の相互受容といった視点を得ることができた。 これらの考察と並行して、キャプテン・クックの来訪の後に伝染病によりハワイの人口が激減した点について、19世紀初頭の航海記を中心にいくつかの検討を加えた。これについては、病と異形の視点から別途論考としてまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は百科事典の出版や記述そのものに見られる知識を集積しようとする情動的な傾向について、主に『ブリタニカ』を中心に検討してきた。これまで太平洋地域の地理情報を事例として検討し、関連する航海記について種々検討してきたが、その中でロマン主義期に出版されたバンクーバー航海記がハワイ史の理解について必要不可欠であることが明らかになり、バンクーバー探検隊がアメリカ大陸北西沿岸部の地理調査については非常に精度の高い地図を残したことも分かった。しかし彼の探検隊の業績は十分に考察されていない側面も多く、その理由として当時のイギリス本国における海軍の主要メンバーの思惑や太平洋地域におけるイギリスの相対的地位の変化が影響していると考えることができた。英文学研究では航海記を理解する際に、こうした社会的、政治的背景について考察することが少なく、今回のバンクーバーについての研究は歴史的資料を正しく理解するために多角的な側面から史料批判をする必要がある点を示してくれたといえる。英文学領域でほとんど先行研究がなく、バンクーバー航海記も長大であるため何等かの形でまとめる際には困難が予想されたが、今年度バンクーバーの業績を総括的に論じ、彼の重要性が過小評価されてきた経緯も明らかにできたことは成果であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、これまで纏められなかった太平洋地域等の地理的記述以外の、特に科学的事項についての百科事典の記述の特質と傾向について考察し、これまでに収集できなかった百科事典編集者についての関係文書等を収集する。ロマン主義期の百科の思想がどのようなものであったか、『ブリタニカ』のみならず『ロンドン百科事典』、『メトロポリターナ百科事典』なども加えて、総括した論考をまとめていきたい。また、今年度の論考の続きとして、これまで検討がされていないバンクーバー旅行記の書評について考察を加える予定である。 今年度は学会活動が制限されたため、海外発表など行うことができなかった。今年度の成果については、さらに発展させた形で何らかの形で口頭発表を行うことを検討している。
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Causes of Carryover |
前年度には大英図書館での調査などを予定していたが、海外渡航が不可能になり、その分の経費を繰り越すこととなった。今年度はこの経費を資料収集のための郵送料、コピー料、オンライン資料などの閲覧料、書籍料等に振り替えるとともに、資料整理などのためのアルバイト経費として利用する。
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