2021 Fiscal Year Research-status Report
Accidental Sense of the Local in the 21st Century American Fiction
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18K00437
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤井 光 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (20546668)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 英語圏文学 / 現代アメリカ文学 / 感染症 / 歴史小説 / ディアスポラ / 資本主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度においては、下記の二つの観点から、学会報告と論文執筆を行った。1)現代アメリカ文学における「偶然の土着性」という問題が、単に地理的な領域にとどまらず、「歴史」あるいは「記憶」という、すぐれて時間的な領域においても考察されるべきである。2)現代作家たちが「土着性」と対比される概念としてのグローバリゼーションを、感染症との関わりでどう描いているのかを検討し、読者を物語構築にどう参加させようとしているのかが考察されるべきである。 1)に関しては、歴史小説というジャンルとの関係を念頭に、日本英文学会全国大会シンポジウムにて、現代作家が歴史小説を構築する際に、物語に「共感可能性」をもたらそうとする作家と読者による一種の共犯関係についての考察を行ったほか、現代作家Paul Yoonが描くロシア沿海州でのコリアン・ディアスポラの現在と過去の表象が、いかにして安易な共感を排除しようと試みているのかを検討する論文を執筆した(『れにくさ』にて発表)。 2)に関しては、Ling MaやNana Kwame Adjei-Brenyahが感染症とゾンビという主題を資本主義の問題との関連で描く小説について、日本英文学会北海道支部シンポジウムにて口頭発表を行ったのち、論文化を行った(『文化交流研究』にて発表)。 また、広義の英語圏文学において、シンガポールのマレー系共同体の物語を英語で執筆することで文化間の「翻訳」を試みるアルフィアン・サアットの『マレー素描集』の全訳、および感染症を主題とするアンソロジー『デカメロン・プロジェクト』の一部訳を担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、海外での調査・研究活動に従事することは叶わなかったが、国内の学会における口頭発表および論文執筆に関しては、複数の機会を得ることができた。その過程で、土着性とグローバリゼーションとの関わりから、感染症という新たな主題を得たことで、研究における新たな進展の可能性を導き出せたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究をまとめる際の枠組みとして、「現代」の時代区分をどうとらえるかという課題がある。いわゆる「長い90年代」(the Long Nineties)を1989年から2001年とする議論が定着しており、その後のグローバリゼーションの進展を枠組みとしつつ、とくに新自由主義下の社会における文学の役割と作家の共犯関係あるいは緊張関係を考察していくことが、この先の課題となると思われ、90年代論を的確に参照する必要がある。 また、過去2年間は実施できなかった海外での調査・研究についても実施を計画している。とくに、新自由主義と密接に結びつきながら合衆国で発達してきた大学院創作科という制度に関して、その制度に属す作家たちとの関係を考察することは、文学テクストの内部と外部を合わせて思考するうえで重要になると思われる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大にともない、海外渡航を伴う研究活動ができなかったことによる。
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[Book] マレー素描集2021
Author(s)
アルフィアン・サアット著、藤井 光訳
Total Pages
248
Publisher
書肆侃侃房
ISBN
978-4863854642