2018 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ドイツ児童文学における「おじさん」表象の変遷についての研究
Project/Area Number |
18K00446
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30452098)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / おじさん |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績としてまず挙げられるのは、本研究が取り扱う一次文献である「おじさん」がキーパーソンとなるドイツ語圏の児童文学を集中的かつ網羅的に収集できたことである。また、本研究の直接的な先行研究が国内には存在しないため、二次文献についてもベルリン州立図書館などにおいて閲覧および複写という形で収集することができたのは、たいへん大きな成果となった。 こうして集められた資料をもとに、本年度の後半には、帝政ドイツ時代の代表的児童文学作品に表れたおじさん表象について、雑誌論文1件・学会発表1件の研究発表を行うことができた。具体的には、アグネス・ザッパー『プェフリング家』(1907)およびルートヴィヒ・トーマ『悪童物語』(1905/1907)の分析を通じて、父権の強い時代のおじさんは総じて影が薄いという仮説の検証と精緻化と行った。歴史学や民俗学のドイツ家族史研究に加え、人類学における「アヴァンキュレート」(母の兄弟と甥の関係)の研究を援用しながら、おじさんなる存在と父性の変遷との相関関係について考察した点が、これらの研究の特徴として挙げられよう。 さらに本年度は、旅するおじさんが甥を含めた少年に与える影響について、1件の学会発表を行った。そこでは主として1930年代のドイツ児童文学作品を扱ったが、日本映画「男はつらいよ」に表れたおじと甥(車寅次郎と諏訪満男)の関係にも言及することで、本研究に比較文学的な広がりを持たせることができた。 最後に本年度に発表したもう1件の雑誌論文についても述べておきたい。この論文では両大戦間期のベルリン市内を活発に移動する子どもがよく描かれたドイツ児童文学作品について論じたが、彼らと親、とくに父親との関係が極めて希薄である点は、より掘り下げて論じるに値することに気づいた。父親不在の状況下においておじさんが果たしうる役割について、引き続き解明を進めたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、20世紀ドイツ児童文学に描かれたおじさん表象の分析を通じて、近代家族制度の変遷とその多様化の実態の解明を目指すものである。一年目に当たる本年度は、資料の収集・整理を行いつつ、帝政ドイツ時代の父子およびおじさんと甥・姪の関係について、代表作の作品解釈に従事することを計画していた。これについては、上述の通り雑誌論文1件・学会発表1件の研究発表を行うことができたため、じゅうぶん達成されたと考えられる。 さらに本年度は、1920年代から30年代のドイツ児童文学についても、父親不在の諸作品と旅するおじさんが登場する作品群について、それぞれ研究発表を行うことができた。これらいわゆる両大戦間期の児童文学に見られるおじさん表象の洗い出しは、もともと二年目に当たる平成31年度の研究実施計画として挙げたものである。したがって翌年度も継続して取り組むつもりであるが、初年度のうちにある程度の端緒を開くことができたのは、今後のさらなる研究の進展にとって極めて有利に働くことが予想される。 以上の理由から、「おおむね順調に進展している。」を選択できると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
残り二年間の研究期間においては、おじさんがもっとも活躍したとされる両大戦間期のおじさん表象の解析、および戦後の東西ドイツ児童文学におけるおじさん像の相違について分析を進める予定である。それに関し、これまでの研究を通じて、おじさんと甥あるいは少年の関係の変遷についてはある程度の蓄積を得られることができたが、おじさんと姪あるいは少女の関係については、必ずしも順調に進展しているとはいいがたい。先行研究が少ないことに由来した困難ではあるが、今後も可能な限り有益な資料の収集には努めたい。それと同時に、すでに収集済みの一次文献については、とくにおじさんと姪あるいは少女の関係に着目して考察・分析を進める所存である。 上記の課題への対応策とも関連するが、おじさんと姪あるいは少女の関係は副次的に扱うにとどめ、むしろおじさんと少年の関係に特化して今後研究を進めることも検討の余地があろう。ただしその際には、両大戦間期と戦後のあいだに位置するナチス時代のおじさん文学も考察の対象としたほうが、研究のふくらみが増すことはたしかである。 どちらの方策を取るべきかは、二年目の研究の進展次第ではあるが、さしあたり両方の可能性を念頭に研究を進めたい。
|
Causes of Carryover |
(理由)ドイツでの資料調査旅行に計上していた経費が予定をやや上回ったため、当初購入を予定していた物品(ノート型パソコン)を購入しなかったため。 (使用計画)本年度に購入できなかった文献および今後の研究計画遂行の過程で生じるであろう不足文献は、可能な限り早期の購入を目指す。その他、ドイツ本国においてこそ可能な資料調査のための旅費を中心に、研究費を使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)