2019 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ドイツ児童文学における「おじさん」表象の変遷についての研究
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18K00446
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30452098)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / おじさん |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度同様、本年度また国外の研究期間に赴き、本研究が取り扱う「おじさん」がキーパーソンとなる20世紀ドイツ語圏の児童文学の一次および二次文献について、集中的かつ網羅的に収集することができた。 こうして集められた資料をもとに、本年度の後半には、両大戦間期、とりわけ1930年代前半のドイツ児童文学作品に表れた「旅するおじさん」表象について、雑誌論文1件を発表することができた。具体的には、エーリカ・マン『シュトッフェル、海を飛んで渡る』(1932)および『魔法使いのムックおじさん』(1934)、フリードリヒ・シュナック『おもちゃ屋のクリック』(1933)、ヴィルヘルム・マッティーセン『赤いU』(1932)の計4作品の分析を通じて、海の向こうの世界に通じた「旅するおじさん」と少年主人公との関係、さらには彼らの父親とおじさんの立場や役割の相違を指摘した。その際、日本映画「男はつらいよ」に表れたおじと甥(車寅次郎と諏訪満男)の関係にも言及することで、本研究に比較文学的な広がりを持たせることができた。 さらに本年度は、現代日本の漫画『弟の夫』(2015-2017)に描かれたおじと姪の関係について、ジェンダー学を扱う国際シンポジウムで発表する機会を得た。この発表で扱った作品は、本研究が考察の対象とする20世紀ドイツ児童文学とは直接的には関係しない。しかし先の日本映画「男はつらいよ」への比較文学的なアプローチ同様、本発表は今後の本研究の展開に広がりを持たせる意味で、たいへん有意義であった。具体的には、本発表を手がかりに、これまで手薄だったドイツ児童文学におけるおじさんと少女(姪)の関係について解明することもまた主たるテーマになり得ると認識することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、20世紀ドイツ児童文学に描かれたおじさん表象の分析を通じて、近代家族制度の変遷とその多様化の実態の解明を目指すものである。二年目に当たる本年度は、資料の収集・整理を行いつつ、両大戦間期ドイツの父と息子およびおじと甥の関係について、代表作の作品解釈に従事することを計画していた。これについては、上述の通り雑誌論文1件の研究発表を行うことができたため、じゅうぶん達成されたと考えられる。 さらに本年度は、現代日本の漫画に描かれたゲイのおじと姪の関係について、ジェンダー学の国際シンポジウムで研究発表を行うことができた。20世紀後半以降のおじさん像については、もともと三年目(最終年度)に取り組む予定であったが、二年目のうちにある程度の端緒を開くことができた点、加えておじさんと少女(姪)の関係についても改めて省察する必要性を認識できた点は、今後のさらなる研究の進展にとって極めて有利に働くものと予測される。 以上の理由から、「おおむね順調に進展している。」を選択できると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、おじさんがもっとも活躍したとされる両大戦間期のおじさん表象のさらなる解析、および戦後の東西ドイツ児童文学におけるおじさん像の相違について分析を進める予定である。それに関し、これまでの研究を通じて、おじさんと甥あるいは少年の関係の変遷についてはある程度の蓄積を得られることができたが、おじさんと姪あるいは少女の関係については、必ずしも順調に進展しているとはいいがたい。先行研究が少ないことに由来した困難ではあるが、本年度に考察した漫画『弟の夫』のみならず、ドイツ語圏の児童文学においても、おじさんと姪あるいは少女の関係はきわめて大きなテーマであると考えられる。したがって本年度は、少年とおじさんだけでなく、少女とおじさんの関係の変遷についても、重点的に研究を進めたいと考えている。 加えてジプシーやドイツ語で書いた日本人作家の作品など、いやゆるマイナーポエットに現れたおじさん像にも目配りしながら、最終年度としての研究成果をまとめる所存である。
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Causes of Carryover |
(理由)年度末にも予定していたドイツでの資料調査旅行を他の予算によって行ったため。 (使用計画)本年度に購入できなかった文献および今後の研究計画遂行の過程で生じるであろう不足文献は、可能な限り早期の購入を目指す。その他、ドイツ本国においてこそ可能な資料調査のための旅費を中心に、研究費を使用する予定である。
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Research Products
(2 results)