2020 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ドイツ児童文学における「おじさん」表象の変遷についての研究
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18K00446
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30452098)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / おじさん・おばさん |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究の最終年度であり、また、研究代表者がサバティカル研修を取得したため、本研究の成果を集中的にまとめて公開する予定であった。しかし感染症の流行にあって発表を予定していた学会の中止や延期のほか、客員研究員として約1年間の滞在を予定していたサバティカル研修先(海外の研究機関)への出発が半年近く遅れ、当初計画の変更を余儀なくされた。その結果、本研究に対する補助事業期間の延長を申請し、令和3年度末まで1年間の延長が承認された。したがって本研究の総括的な成果発表は来年度に持ち越されることになった。しかし本年度中にも雑誌論文1件の研究成果を発表することができた。また、来年度に公表する予定の論文を3本執筆し、うち1本は現在、査読を受けている。 本年度に発表した論文の特長をもとに本年度の研究の深化について述べると、本研究はこれまでおじと甥の関係に特化して進められてきたが、その際に見落とされることの多かったおじと姪の関係についても考察することができた点が挙げられよう。とはいえ1930年代のドイツ児童文学に描かれたおじと姪の関係は、同時代のおじと甥のそれに比べあまりに希薄である。そこで研究代表者は、おじと甥ならぬおばと姪の関係にも着目し、「おばさん文学」の成立可能性について検討した。その結論は否定的なものに終わったが、「おばさん文学」の不可能性について論じることで、父の不在や少年と少女の家族観の相違など、「おじさん文学」が成立するための条件について多面的な分析を行うことができたのは、本年度の大いなる収穫であった。 この視点は次年度(最終年度)に発表が予定されている他の論文にも活かされている。そこではクリスマスの過ごし方やジプシーとの交流、忍び寄るナチスの影をキーワードに、両大戦間期の少年のみならず少女にとっての家族像の変化と、そこで果たされるおじ・おばの役割について考察される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、20世紀ドイツ児童文学に描かれたおじさん表象の分析を通じて、近代家族制度の変遷とその多様化の実態の解明を目指すものである。本年度は最終年度として、海外で開催されるものを含め複数の学会等において成果を公表する予定であった。しかし感染症の流行により、また、それに伴う社会情勢の変化により、当初計画の変更を余儀なくされた。その結果、本研究に対する補助事業期間は令和3年度末まで1年間延長されることになった。3年間の実行を妥当としていた本研究の遂行を延期せざるを得なかった点で、現在の進捗状況は「おおむね順調に進展している。」とは言い難い。 しかし本年度に研究代表者は、所属研究機関においてサバティカル研修を取得することができた。これもまた当初の計画通り実行することはできなかったが、教育などの職務が免除され、研究に専念することができたことは、本研究の進捗にとってたいへん有利にはたらいた。具体的には、令和元年度の実施報告書に「おじさんと姪あるいは少女の関係については、必ずしも順調に進展しているとはいいがたい」と書いたが、本年度に発表した雑誌論文を通して、この遅れを取り戻すことができた。あるいはすでに来年度に公表する予定で完成した論文も複数ある。 最終年度に行なうべき成果発表のめどがすでに立っている点を重視し、「遅れている。」ではなく「やや遅れている。」を選択できると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、本年度中に完成した3本の論文は来年度の公表を予定している。また、ナチス時代の少女文学に描かれた職業選択と家族像の変遷について論じるための準備(作品選択や二次文献の収集など)も本年度中に終えている。最終年度に当たる次年度は、これらの研究とこれまでの研究成果を接続し、おじさん文学を中心に据えた両大戦間期ドイツ語児童文学に関する研究書の書籍化を目指す。 加えて本研究を発展させる形で次の科研費の応募を目指す。
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Causes of Carryover |
(理由)感染症の流行により、研究の成果発表のための旅費(とくに外国旅費)が使用できなかったため。 (使用計画)次年度も旅費での使用は困難と思われるので、本年度に購入できなかった文献および今後の研究計画遂行の過程で生じるであろう不足文献の購入に充てる。その他、本研究の完成(書籍化)のために研究費を使用する予定である。
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