2018 Fiscal Year Research-status Report
共同行動の政治哲学と群れの科学に基づくヴァイマル共和国期の群集表象の言説史的研究
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18K00483
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
海老根 剛 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00419673)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 群集 / ヴァイマル共和国 / 協同行動 / 都市文学 / 群れ / 革命 / 技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主題は、今世紀に政治哲学および自然科学の分野で急速な発展を遂げた集団や群れの行動に関する理論的知見にもとづいて、ドイツ・ヴァイマル共和国時代の文学作品の群集表象を新たな角度から分析することである。2018年度には、主に2つの作業に取り組んだ。 まず年度の前半は、ジュディス・バトラーらの協同行動をめぐる政治哲学的議論の進展と群れの研究の歴史的発展を、当該の文献を参照することで確認するとともに、それらの議論がヴァイマル共和国時代の群集をめぐる議論といかなる接点を持ちうるのかを検討した。その結果、バトラーらによる協同行動や蜂起をめぐる理論的考察が、しばしばヴァイマル共和国初期の革命的群集を論じた言説と主題上の接点を持つ一方で、群れの科学による人間集団の振舞いの分析は、高度に機能化されたネットワークとしての都市空間における半ば自動化された個々人の振舞いに注目したヴァイマル共和国中期の言説と接点を持つことが明らかになった。今後、この観点から、具体的な群集表象の分析を進めたいと考えている。 そして、年度後半は、主に、20世紀の群集をめぐる思考の歴史において特異な存在であり続けているエリアス・カネッティの仕事を、申請者の研究の問題設定との関係で捉え直す作業に従事した。ここでの主眼は、カネッティの『群集と権力』における群集をめぐる考察を、ヴァイマル共和国時代の群集論と今世紀の新しい言説(協同行動の政治哲学と群れの研究)の両極の間に位置づけ、それぞれとの連続性と断絶を明らかにすることである。そして、『群集と権力』におけるカネッティの考察が、1920年代のドイツとオーストリアにおける群集体験、およびヴァイマル共和国時代の群集をめぐる言説と取り結ぶ密接な関係については、年度末の学会において研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗状況は、研究成果の発表に若干の遅れがみられるものの、おおむね順調に推移していると判断する。三年計画の最初の年度である2018年度には、すでに述べた通り、協同行動をめぐる政治哲学および群れの振舞いをめぐる自然科学的研究の理論的知見と、ヴァイマル共和国時代の群集をめぐる言説との接点を見極める作業を行った。また、20世紀後半の群集をめぐる思考の歴史において特異な地位を占めるエリアス・カネッティの仕事を、ヴァイマル共和国時代と現在の理論的言説の双方と比較し、それぞれの場合について、連続性と断絶がどこにあるのかを見定めることを試みた。この作業の成果については、すでに学会において口頭で発表をしているが、2019年度には学術論文の形で発表する予定である。 今後の作業においては、ヴァイマル共和国時代の文学作品における群集表象を、上述の2つの理論的知見(協同行動の政治哲学および群れの科学)を考慮に入れて具体的に分析するとともに、ヴァイマル共和国の群集をめぐる思考の枠組みの変遷を捉え直すことに重点が置かれることになる。 申請者はすでにヴァイマル共和国時代の代表的な文学作品(主に小説)における群集表象について考察を進めてきているが、共和国初期のドイツ革命を主題とした小説作品、および1920年代半ばのベルリンを舞台とする都市文学については検討できていない重要な作品がいくつか存在する。また、すでに一定の分析を終えている作品についても、今世紀の理論的知見が提供する視点からの再検討の作業が必要である。 ヴァイマル共和国時代の群集をめぐる思考の枠組みの変遷についても、申請者はすでに一定の仮説を持っているが、この仮説もまた本研究の問題意識にしたがって、より精緻なものにしていく必要がある。とりわけ、共和国末期の言説の布置の変容については、さらなる検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針については、以下のように考えている。 まず2019年度には、すでに述べたように、前年度に行った作業の成果として、エリアス・カネッティの『群集と権力』をヴァイマル共和国時代と現在の間に位置づける論文を執筆し、学術雑誌で発表する予定である。また、ヴァイマル共和国時代の群集表象と群集をめぐる理論的言説の変遷を主題とする研究発表を、夏の国際学会にて口頭発表することになっている(使用言語:ドイツ語)。年度の後半には、まだ検討していない文学作品の考察を進めるとともに、新しい理論的知見に立脚した観点から文学作品における群集表象を読み直す作業を行う予定である。また年度後半には、ドイツの図書館・アーカイブなどでの資料調査も行う。 こうした作業をベースとして、2020年度には、ヴァイマル共和国時代の文学作品における群集表象の分析をさらに進め、当時の群集をめぐる学術的言説と文学表象の歴史的展開の考察を論文や口頭発表などの形で発表していく予定である。
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Research Products
(1 results)