2019 Fiscal Year Research-status Report
共同行動の政治哲学と群れの科学に基づくヴァイマル共和国期の群集表象の言説史的研究
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18K00483
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
海老根 剛 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00419673)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 群集 / ドイツ文学 / ヴァイマル共和国 / 都市 / 蜂起 / 革命 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主題は、今世紀に政治哲学および自然科学の分野で急速な発展を遂げた集団や群れの行動に関する理論的知見にもとづいて、ドイツ・ヴァイマル共和国時代の文学作品の群集表象を新たな角度から分析することである。2019年度は以下の作業を行なった。 まず年度の前半は、自然科学における群れの研究の言説史を論じた先行研究を検討しつつ、群れの科学の知見と現代社会の政治哲学的考察との接点を見極める作業を行なった。情報にもとづく自己組織化のシステムとしての群れの分析は、支配権力とそれによって支配される主体との対立関係から出発するのではなく、統治対象についての知およびそれを捕捉するテクノロジーと統治対象との間の相互作用のメカニズムとして権力を分析するフーコーの統治性の概念と接続しうる。このことは、群れの振る舞いについての知見が統治のテクノロジーとして機能する可能性を示唆しいる。こうした現代の群れと群集をめぐる知が歴史的な群集表象と言説の分析にどのように関係づけられるのかという点について、8月に行われた国際学会でドイツ語の発表を行なった。 年度の後半は、主にヴァイマル共和国初期の革命的な群集をめぐる考察を、群集と蜂起をめぐる今日の理論と接続するための作業を行なった。ドイツでの資料調査を行い、ベルリン州立図書館、ベルリン自由大学付属図書館などで1919年~1922年頃に出版された革命と群集を主題化した小説の閲覧と複写を行なった。これらの小説は文学史の中ではほとんど顧みられることのない作品群であるが、群集をめぐる当時の言説の分析にとっては貴重な資料である。また年度後半には、8月の国際学会の発表を論文にまとめる作業も行なった。年度末に予定していた学会発表は、コロナウイルスの蔓延のため中止となってしまった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究の進捗状況は、コロナウイルスの蔓延の影響もあり、研究成果の発表に若干の遅れがみられるものの、概ね順調に推移していると判断する。 すでに述べたとおり、今年度は自然科学分野における群れの振る舞いの理論が現代社会の分析といかなる接点を用いうるのかを検討するとともに、ドイツでの資料調査にもとづいて、ヴァイマル共和国初期の革命を主題とする文学作品の分析を進めた。申請者はすでにヴァイマル共和国の革命的群集を論じた哲学や精神分析学などのテクストを考察してきたが、当時多数発表された比較的マイナーな小説作品についてはアクセスの難しさから十分に検討することができていなかった。今回の資料調査でいくつかの作品資料を入手することができたので、今後、小説作品についても分析を深めていきたい。 8月に行われた国際学会では、研究全体の見取り図を簡潔に提示するとともに、群れの振る舞いについての科学的言説と共同行動に関する政治哲学が群集の表象と言説の歴史的研究にとって持ちうる含意を検討した。この発表は論文の形で2020年度に刊行予定である。 なお年度後半の成果として、1920年代初頭に革命を主題とする小説を多数執筆している女性作家 Hermynia Zur Muehlen の作品を考察する研究発表を予定していたが、コロナウイルス問題のために学会が中止になってしまい、発表することができなかった。この研究成果については、別の機会に発表したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方針については、以下のように考えている。 まず年度の前半には、昨年度から引き続き、革命を主題とする小説作品を集団行動と蜂起をめぐる政治哲学が提示した理論的観点から読み直す作業を行う。そのさい、近代の群集の概念の理論的再検討も進める。この主題については今年度中に論文を執筆し学術誌に投稿すること目指す。 年度の後半には群れの科学の知見と蜂起の政治哲学との接点を見極めるための作業を行い、群集をめぐる新しい思考の枠組みの全体像を把握することに努める。またヴァイマル共和国時代中期の都市文学の根底にある技術的ネットワークとして都市というヴィジョンを、群れの科学が提示する自己組織的ネットワークの理論の観点から検討する作業を行う予定である。この作業についても、研究発表などの形での成果の公表を目指す。
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Causes of Carryover |
年度末に予定されていた東京への国内出張が取りやめになったため、その分が残額となった。
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Research Products
(1 results)