2020 Fiscal Year Research-status Report
オーバーラップする異国趣味・郷土主義ー東アジアモダニズム研究の基盤構築に向けて
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18K00509
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
波潟 剛 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (10432882)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 東アジア・モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
学術論文を1本発表した(”Philosophy of "wildness"(yasei): Fumiko Hayashi's Ukigumo and the postwar version of Horoki,”Bulletin of the Graduate School of Integrated Sciences for Global Society,27-2,2021,pp.22-38)。この論文では、近代日本文学における女流作家の代表的人物の一人である林芙美子(1903-1951)に関して、晩年となる戦後の創作活動に注目し、長編小説『浮雲』と、第三部を加筆して出版された戦後版『放浪記』との関係を、「野性」という共通点に即して分析した。『浮雲』のエピグラフに掲載されるシェストフの文章は、新プラトン主義の哲学者プロティノスに関する論考の一部であり、シェストフが指摘するプロティノスの「理性」批判は、小説『浮雲』において、主に「野性」的な人物「ゆき子」を通して描かれている。この「野性」は『放浪記』にも通じる点があり、第三部で、よりアナーキーな側面を強調した姿勢と重なる。戦後になって、自己注釈的に第三部が追加された戦後版『放浪記』と、戦前における徴用体験を自己省察的に描いた『浮雲』が、「野性」という特性によって結びつき、彼女の文学的評価を好転させる要因の一つとなり、また、モダニストとしての再評価にもつながったという点を明らかにした。本課題が研究の軸としている異国趣味と郷土主義に関して、前者における問題を具体的に検討することができた。引き続き、後者の郷土主義の問題に接続していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響により、モダニズム研究者を招聘してワークショップを行うことが不可能になり、また、2020年度に予定していた研究発表も、同じ理由で開催が延期され、予定通り発表することができなくなった。加えて、大学におけるオンライン講義等の準備に追われるなど、予定外の業務が続き、モダニズムに関するサイトの立ち上げを延期せざるを得なくなった。学術論文を1本発表することができたが、計画は全体として遅れ、完了まで1年延期を申請した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に実施できなかったワークショップの開催、および、モダニズム研究のウェブサイトの立ち上げを実現させる。新型コロナウイルスの影響が続く場合には、オンラインでの開催等の対応策を検討し、研究計画の遂行に向けて、随時、次善策を実施する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、2020年度に計画していたワークショップ、およびウェブサイトの立ち上げを実現できなかったため。2021年度中に実現できるよう、計画を練り直す。
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Research Products
(1 results)