2019 Fiscal Year Research-status Report
A Syntactic Study of Null Arguments in Japanese Sign Language
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18K00576
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
上田 由紀子 山口大学, 人文学部, 教授 (90447194)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤巻 一真 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (60645985)
内堀 朝子 東京大学, 大学院工学系研究科, 准教授 (70366566)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本手話 / 目的語喪失文 / 動詞句削除 / 項削除 / 非手指表現の動詞への波及 / 主要部移動 / PF削除 / LFコピー |
Outline of Annual Research Achievements |
日本手話言語の目的語喪失文(object dropping)における「空項」の解釈とその統語派生に関するネイティブサイナー(協働研究者)の調査と分析を行なった。特に、非手指表現で表される副詞表現とその動詞への波及に注目し、観察を続けた。 昨年度の成果として、日本手話における副詞表現の非手指表現の動詞への波及は、形態的隣接条件と構造的c-command条件の2つの条件を満たしている必要があることを観察した。本年度は、この非手指副詞表現の動詞への波及の観点から、日本手話の目的語喪失文(「/太郎/ /車/ /洗う/。/花子/ [ e ] /洗う/。)は、動詞残留型動詞句削除(Matsuoka & Samamoto 2016)により派生しているのではなく、項削除により派生されることを示した。また、その帰結として、日本手話の少なくとも、目的語喪失文においては、動詞主要部の移動(V-head Movement)は生じていないことも主張した。さらに、(「/太郎/ /車/ /丁寧/ /洗った(同時に/丁寧/の非手指表現)/。/花子/ [ e ] /洗う/。)では、「丁寧」の解釈が含まれないのに対し、表層的には大変似ている左記の文(「/太郎/ /車/ /丁寧/ /洗った(同時に/丁寧/の非手指表現)。/花子/ [ e ] /やる/ /ない/。)では、「丁寧」の解釈ができることを観察し、/やる/を使用した後者は、動詞を含んだ形での動詞句削除が生じている文であると主張した。本研究は、第158回日本言語学会で発表し、意見交換を行なった。 日本手話を分析するにあたり、「空項」に関する音声言語での研究は貴重な示唆を与えるものである。その観点から、阿部潤氏を迎え、理論言語学セミナーを開催し(R2年2月4日開催:至山口大学)、学外からの専門家も交え議論を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度、前半は問題なく初年度に収集したデータの分析や成果の発表を遂行できたが、後半は12月下旬以降、コロナ感染防止のため、対面調査ができなくなり、そこで行う予定であったさらなる検証データの確認は未だできていない。現在のところは3ヶ月程度の遅れとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
さらなる研究計画としては、この日本手話の目的語の喪失がPF削除で派生されるのか、LFコピーで派生されるのかについても明らかにしたいと考えている。音声言語における研究では、(Oku 1998, Sakamoto 2016, 2019他)多くの研究があるが、日本手話での「空項」に関する理論研究はそこまで進んでいるものは少ない。これらの研究の証拠としてあげられているものの多くは、空項からの取り出しなどの現象を扱うもので、埋め込み文を避ける手話言語では、そのままの形での検証は困難である。内堀による日本手話の名詞句内構造と解釈の一連の研究なども参考にしながら、名詞句内からの数量詞の取り出し可能性なども今後検討する予定である。 2020年度は最終年度となるので、成果公開の手段として、現段階では「言語学的アプローチによる手話研究の現在」と題して、公開講演会(2021年3月20日(土) 慶應義塾大学にて開催)を予定している。自身もろう者である研究者をゲストスピカーとして招待講演を行う他、本研究課題での成果も手話研究の現在として発表する予定である。日本手話の研究者ばかりでなく、音声言語の研究者、および、日本手話や言語理論に興味のあるろう者にも参加していただけるよう、手話通訳をつける予定である。 2020年度終わりまでには、本研究課題の成果を国内外のいずれかの雑誌に論文としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
分担者1名が出張を予定していたが、コロナ感染拡大防止のため出張が中止となったため、次年度へ繰越すこととなった。 次年度、現在の状況が緩和されれば、予定の出張等も計画できると思われるため、次年度後半に使用できる予定である。
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Research Products
(4 results)