2020 Fiscal Year Research-status Report
A Syntactic Study of Null Arguments in Japanese Sign Language
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18K00576
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
上田 由紀子 山口大学, 人文学部, 教授 (90447194)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤巻 一真 神田外語大学, 外国語学部, 准教授 (60645985)
内堀 朝子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70366566)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本手話 / 項削除 / 動詞句削除 / pro / CL動詞 / 非手指表現 / 動詞への波及 / 代動詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本手話の削除の文脈にいわゆる目的語喪失文(object dropping construction)における「空項」の解釈とその統語構造に関し、非手指表現に注目して、ネイティブサイナーへのデータセッションを重ね、観察・調査を引き続き行い、調査結果の分析を行った。 令和元年度までは、基礎データの収集・観察として、まずCLやRSを含まない一般動詞における削除現象を扱ったが、令和2年度は、先行文の動詞にCL動詞が使用されている際の削除現象の観察を行った。その結果、CL動詞の際の削除現象では、一般動詞の削除現象の際とその空項解釈が一定の条件で異なることを観察し、CL動詞が一般動詞に比べ、より複雑な統語構造を有している可能性を示唆することを日本手話のデータより示した。また、これまでの音声言語も含めあまり議論をされてこなかったpro解釈と削除/転写現象としての空項の表出条件を含めた分析を行った。 また、本研究課題の目的の一つでもあった、ろう・聴の研究者が共に集う言語コロキアムをオンラインにて開催した(令和3年3月20日,於:慶應義塾大学)。講演者もろうと聴の研究者を招待し、また、参加者もろう・聴者が出席した。ろう者への情報保障として、全ての講演、その後の質疑応答、司会進行の全てに手話通訳(2名)をつけて行い、また、一部の講演のみであったが、手話の講演の動画資料に字幕もつけ行った。手話通訳者の派遣及び手話からの日本語音声の入力、通訳音声の字幕入力等、様々な過程において、学術分野に精通した人材を採用したこともあり、非常に自然な形で講演、質疑応答も活発に行うことができた。 研究成果の公開としては、令和元年度までの研究成果の一部を論文としてまとめ刊行した(令和3年3月)。また、令和2年度末までの研究成果の一部は、慶應言語学コロキアム(令和3年3月20日開催)に於いて、口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調には進んではいるが、CL動詞はかなり複雑であり、また、RSとの関わりも無視することができないことが、データセッションを重ねるごとに分かり、RSの有無も含めた、より緻密な観察が必要であることをあらためて認識した。それ故、令和2年度以降の成果を論文として公表する際には、さらなる追加の検証データが必要となる。 コロナの影響で、対面調査ができなかったため、通訳をつけての遠隔での調査に令和2年度前半は戸惑ったが、後半は調査方法の変化にも慣れ、定期的なデータセッションを東京・山口を繋いで行うことができている。 また、コロナの影響で、令和2年度の前半は学会自体の中止などもあり、成果発表の公開という意味では、令和2年度後半に入っての国内でのオンラインにとどまっている。オンラインも利用して、成果の公開を国外にも増やしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
日本手話における削除現象に関して、以下のパターンを観察し、まとめる。(1)一般動詞:RSあり・なし、(2)CL 動詞:RSあり・なし。上記から見えてくる事実から、CL動詞の統語構造、RSの働きと統語的役割等も明らかにしていく予定である。 オンラインでも調査は可能であるが、視線の外し方など含め、最終的には、対面での確認も行うことができればと期待している。令和3年の秋以降には、対面の可能性もあると考えている。 また、データの信憑性に関わる問題として、複数人のネイティブサイナーへの調査も心がける必要がある。この手の調査には、メタ言語能力の高い日本手話のネイティブサイナーが必要であるが、そのようなネイティブサイナーとの出会いは容易ではないことは確かであるため、研究者間での情報共有や紹介がしやすいネットワーク作りなども将来的には考え得る。
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Causes of Carryover |
コロナにより国内外に予定していた成果発表(国内外)、研究打ち合わせ、および調査にかかる旅費(代表者・分担者)、また、調査における専門知識提供者にかかる旅費、およびコロキアム開催にかかる旅費(講演者)および会場費が使用できなかった。しかしながら、その一部は、ろう・聴共同参画のコロキアムのオンライン開催への変更に向けての準備(発表用動画の作成に伴う費用、ろう者への情報補償のための字幕入力などの費用、オンライン開催準備にかかる学生アルバイトへの謝金)に用途を変更し使用した。 次年度は、コロナの状況が好転した場合は、対面での成果発表に戻り、その旅費として使用する予定である。しかしながら、それも次年度後半になると予測し、前半は、令和2年度末までに得た結果を検証すべくデータセッションを行い、ネイティブサイナーである専門知識の提供者への謝金として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)